帰還
王都に到着した僕は、休む間もなく真っ直ぐに、ミハイルとアイシャを軟禁していた王宮の自室へと向かった。
だが、重厚な扉の前に立った瞬間、僕の足はピタリと止まってしまった。
手を伸ばしかけたドアノブが、まるで極寒の氷でできているかのように冷たく感じられ、指先が躊躇いに震える。
((……どうしよう。手紙で『直に戻る』って伝えた以上、きっと二人は僕の帰りを待ち構えているよね……。そもそも、どうして軟禁なんて手荒な真似をしたのか、二人にはなんて説明すればいいんだろう?ミハイルは生真面目だからきっとすごく怒ってるし、アイシャには泣かれるだろうなあ……。『僕の復讐を邪魔させないため、そして二人を巻き込まないためだった』って、やっぱり正直に話した方がいいのかな……))
そんな初歩的なことで、僕が本気で悩み始めると、脳内の『私』が、呆れ果てたような、しかしどこか必死さの混じった盛大なため息を吐き出してきた。
『ちょっとカース、正気になりなさいよ……。たしかに正直であることは美徳だし、ミハイルもアイシャも、隠し事を好まないまっすぐな性質なのは分かってるわ。二人のことだから、きっとあなたの歪んで後ろめたい部分も含めて、すべてを受け入れて、愛し、支えてくれるとは思う……。けどね!「身内殺し」の事実だけは、絶対に墓まで持っていった方がいいと思うわよ……!?』
『私』のそのあまりにも正論すぎる猛抗議に、僕は心の中でぐうの音も出ずに言葉を詰まらせた。
たしかにそうだ。
いくら僕を深く理解し、味方でいようとしてくれる二人だからといって、「実の弟を地下牢に監禁し、徹底的に拷問にかけた後に首をへし折り、故郷の屋敷ごと私兵を灰にしてきたよ」などと笑顔で告白されたら、いくらなんでも正気を疑われる。
それどころか、二人の心に一生消えない恐怖とトラウマを植え付けることになるだろう。
『復讐はもう終わったのよ。だからあの子たちには、政治的な安全を確保するための隔離だったとか、教皇庁の目を逸らすための狂言だったとか、いくらでも綺麗な建前を使いなさい。お願いだから、これ以上の地獄の道連れにあの純粋な二人を巻き込まないであげて……』
((ふふ……そうだね。『ミーナ』の言う通りだ。綺麗な嘘なら、僕のこのソプラノで、いくらでも美しく囀ってみせるさ))
『私』に盛大に呆れられ、突き放されたことで、僕のガチガチに強張っていた肩の力が、ほんの少しだけ抜けた気がした。
奈落の底に片足を突っ込んでいた僕を、彼女はこうしていつも、軽妙な境界線へと引き戻してくれる。
僕は小さく深呼吸をして、先ほどまで纏っていた冷酷な復讐者の仮面を、心の奥底へと厳重に仕舞い込む。
そして、かつて二人が愛してくれた、儚げに微笑む無垢で可憐な少年の表情を完璧に作り直すと、そっと扉を開けるのだった。
少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると大変励みになります!
基本毎日更新です。
今後もよろしくお願いします!




