すべてが灰になる世界で
ゴオオオオッ……!!!
激しい爆音と共に、トラッド辺境伯邸が内側から一気に赤黒い炎に包まれた。
「な、何だ、何が起きたぁッ!?」
「扉が開かねえ!おい、出せ!出してくれえええ!!」
金目のものを抱え、逃げ惑う私兵たちの絶叫が遠くから微かに聞こえた気がしたが、それもすぐに、すべてを呑み込む烈火の咆哮にかき消されていく。
僕が去勢され、ジュリアスを拷問死させたあの忌まわしい地下室も。
僕たち兄弟を狂わせ、すべての元凶となった冷酷な父上の執務室も。
悲劇の引き金となった、最愛の母上が何よりも大切に慈しんでいた美しい庭園も。
そして、かつて幼い僕とジュリアスが、仲良く寄り添いながら幸せな未来を語り合っていたはずの、僕たちの部屋も——。
そのすべてが、等しく赤黒い炎に舐め尽くされ、激しい黒煙を上げて灰へと変わっていく。
僕はジュリアスの墓のすぐ隣に静かに腰掛け、ただ黙って、生まれ故郷の象徴が音を立てて崩れ落ち、燃え尽きていく様を見届けていた。
パチパチと火の粉が夜明けの空へと舞い上がっていく。
炎が放つ凄まじい熱が、僕の涙で濡れた頬をじりじりと乾かしていった。
すべてを奪われ、そして、すべてを奪い返した。
けれど、手元に残ったのは、僕を縛り付ける天上の歌声と、教皇庁という歪んだ地位、そして――誰もいない静寂だけだった。
『……終わったのね、カース』
脳内で『私』が、静かに、そしてどこか優しく、僕の肩へと手を置くように呟いた。
((ああ、終わったよ。僕たちの復讐は、すべて……))
数時間後、豪奢だった屋敷が完全に焼け落ち、ただ白い灰だけが虚しく風に舞う頃、僕はゆっくりと立ち上がった。
——もう、振り返る必要はない。
一度も後ろを見ることなく、僕は僕のすべてだった故郷を永久に去った。
少年の血塗られた復讐の旅路は、いま、完全なる灰燼の中で、あまりにも静かに、その幕を閉じたのだった。
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