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【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】  作者: nhhtn
復讐編

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煉獄への独白


復讐のすべてを終えた僕は、郵便騎手を雇い、王都に残してきた私兵へと宛てた短い手紙を託した。


『本日を以てミハイル・ド・ポルネー及びアイシャ・トラッド両名の軟禁を解く。僕も直に戻る』


すべてに決着がついた今、彼らをこれ以上縛り付ける意味も理由もなかった。

僕自身の王都への帰路は、かつてABC同盟の英雄として華々しく凱旋した時のような軍艦でもなければ、教皇庁が用意した豪奢な特使の馬車でもなかった。

僕は身元を隠すように衣服のフードを深く被り、一般の民衆が乗り合わせる地味な駅馬車を何本も乗り継いで、ただ静かに、音もなく王都へと向かっていた。

ガタゴトと規則正しく揺れる馬車の車内は、長旅に疲れて眠りこける乗客たちばかりで、心地よい静寂に包まれている。

その静けさの中で、ずっと僕の心に寄り添い、共に血塗られた地獄を歩んできた『私』が、心音のようにそっと問いかけてきた。


『ねえ、カース。あなたがジュリアスの最期に言っていた言葉……「二人とも地獄行き」って、どういう意味なの……?私には、あなたがそこまで自分を責める理由が分からないわ……』


僕はそっと目を閉じ、馬車の心地よい振動に身を委ねながら、心の中で彼女の問いに静かに答えた。


((文字通りの意味だよ、『ミーナ』。裏切りの罪人は地獄の中でも最下層……コキュートスの溶けない氷の湖に魂を囚われ、断罪の業火でその身を灼かれるんだ。零した涙は一瞬で蒸発し、無かったことにされる。後悔も、懺悔すらも赦されず、ただ永遠に己の罪と向き合い、藻掻き苦しみ続けるのさ。——そして、『親殺し』や『身内殺し』は、神の法においても、人間の法においても、弁解の余地なき最悪の裏切り行為であり、大罪なんだよ……))


僕が淡々と、まるで他人の事績を読み上げるかのように自らの罪を断罪すると、『私』は一瞬、息を呑むような気配を見せた。

そして、さらに僕の魂の核心に触れる問いを重ねてきた。


『……じゃあ、お父様やジュリアスに復讐したこと、今になって後悔しているの……?』


張り詰めた沈黙が、僕の胸の中でわずかに揺れる。


((……少しだけね))


切られた去勢の傷跡が、今更になってちりちりと微かに痛むような感覚だった。


((もし、僕がもっと大人で、もっと力があれば……ジュリアスの飢えに気づいてあげられていたら……。血を流さず、話し合いで解決できた未来も、あったかもしれないって思うんだ。……でもね、母上の仇を討ったことそのものは、少しだって後悔していないよ))


僕は脳内で、自嘲気味に、けれど酷く冷ややかに微笑んだ。


((もし時間を巻き戻して過去に戻れたとしても、父上やジュリアスが、あの残酷で傲慢な彼らのままである限り、僕の選択もきっと変わらない。僕は、何度歴史を繰り返したとしても——きっと、何度でもあの地下牢で、身内殺しに手を染めるのだと思う))


愛を求め、狂い、すべてを壊した弟。

怒りに任せ、その弟を磨り潰した兄。

それが、僕という『化け物』の、変えようのない血統であり、本質なのだから。


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