慟哭
ジュリアスはもう、何一つ抵抗しなかった。
されるがままに僕にその身を委ね、ただ静かに終わりの時を待っている。
これ以上、彼に生きる意志は残されていなかった。
けれど、いざその時を迎えると、僕たちの間に横たわる残酷な体格差が大きな壁となった。
「――っ……!」
幼い頃に去勢され、華奢な骨格のまま育った僕の腕力では、成人男性であるジュリアスの首を簡単には折ることができない。
「あ……、う、くっ…………」
何度も骨が鈍く軋む音と、息の詰まった苦しげなジュリアスの呻き声が薄暗い地下牢に響き渡る。
その音が、僕自身の心を容赦なく抉り、狂おしいほどに苦しめた。
こんな無様な引き延ばしは、ジュリアスにとっても、僕にとっても終わりのない地獄でしかない。
((ダメだ、こんなの……っ。互いのために、今すぐ、一瞬で終わらせなければ……!))
僕は一度腕を離すと、ぐったりとしたジュリアスを地下牢の粗末なベッドへと座らせた。
そして、僕自身もベッドの上の彼の背後へと回り込む。
包み込むように、まるで幼い頃の記憶をなぞって優しく抱きしめるかのような体勢で、その首に全ての力を込めて腕を回した。
「――カース、兄上……」
僕が腕に限界の力を込めたその刹那。
五感を失い、暗闇の中にいるはずのジュリアスが、最期に、その横顔に微かな笑みを浮かべ、僕の名前を呼んだ気がした。
――バキリ。
次の瞬間、乾いた音と共に首の骨はあっけなく折れた。
「…………っ」
腕の中から、一瞬にして一切の力が失われる。
重力に従って、だらりと前に崩れ落ちた弟の肉体。
もう二度と動くことも、怯えることも、僕を呪うことも、愛を求めて彷徨うこともない。
ただの、静かな物言わぬ塊。
僕は、急激に冷たくなっていく弟の身体を、後ろから強く、強く抱きしめた。
「あああ……っ、あああああああ!!!!」
胸の奥の、最も深い場所に眠っていた堤防が完全に決壊した。
自らの身体を去勢という形で無惨に切り刻まれ、跡継ぎの座を追われたあの日。
母上と共に絶望の淵で泣いたあの日以来――どんなに屈辱を味わっても、どんなに身を穢されても、一度たりとも流すことのなかった涙が、両目から溢れて止まらなかった。
『私』は脳内で、何も言わずに、ただ僕の激しい慟哭を優しく抱きしめていた。
かけるべき言葉など、もうこの世界には存在しないと分かっていたから。
復讐の果てに、すべてを奪い、すべてを破壊し尽くした少年。
彼は、自らの手で血塗られた歴史に幕を閉じた、この薄暗い地下牢の片隅で、幼い頃に置いてきてしまった本当の『カース』に戻ったかのように、声をあげて、いつまでも、いつまでも子供のように泣き続けるのだった。
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