遅すぎた和解
「ジュリアス……。僕はね、母上を殺した君のことが、どうしても許せなかったんだ……」
僕の声は、自分でも驚くほどに微かに震えていた。
ジュリアスの首に回した手の平から、彼の弱々しい、けれど確かに生きている人間の体温が伝わってくる。
僕の言葉を聞いたジュリアスは、爆発で煤けた唇を小さく戦慄かせた。
何度も息継ぎをし、血涙を流しながら、今にも消え入りそうな声で僕の言葉に応える。
「兄上……。私は……父上に期待、され……お前は完璧であれと……。それなのに、母上の、耳目を独占する……あなたが……どうしても、妬ましかった……。ただ、私を見て、ほしかった……それだけ、だったんだ……」
((ああ……やっぱり、そうだったのか……))
ジュリアスは、ただ愛情に飢え、歪んだ期待の中で育ち、苦しみ、狂ってしまった被害者でもあったのだ。
どこかで予期してはいた。
けれど、実際には初めて聞く弟の幼い本心は、あまりにも切なく僕の胸を抉り、暗い後悔の念を抱かせた。
けれど――もう、すべてが遅すぎる。
僕たちは引き返せないところまで来てしまっていた。
「さようなら、僕の可愛い弟……。きっと僕たちは二人とも地獄行きだけど、もし向こうで母上に会えたら、ちゃんと謝るんだよ」
「は、い……。ごめん……なさい、兄上……。本当に……ごめん、なさい……っ」
掠れた、けれど確かにそう聞こえた、弟の震える謝罪。
母上を無残に殺したジュリアスを、僕は決して許せなかった。
けれど、最期の最期に聞こえたその弱々しく、子どものように素直な声は、かつて僕たちを狂わせ、冷酷に見下していたトラッド辺境伯の傲慢な跡継ぎのものではなかった。
ただ歪んだ環境の中で、親の愛を、家族の温もりを歪んだ形で求め続けただけの、哀れな一人の子どもに過ぎなかったのだ。
実の兄弟として生まれ、同じ血を分けた家族でありながら、僕たちは死の間際になって、こんな凄惨な地獄の底でしか分かりあえなかった。
その残酷な事実が、僕の胸を強く締め付け、どうしようもなく悲しかった。
『カース……ジュリアスはもう完全に戦意を喪失してるわ。自分の犯した罪を、自分の運命をすべて受け入れて、あなたにすべてを委ねている……。もう、終わりにしましょう……。これ以上この部屋にいたら、あなた自身の心が壊れてしまうわ……っ』
脳内で『私』が、今度は愉悦ではなく、僕の心を案じるような、泣き出しそうな声を響かせた。
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