生かされた天才
僕は、黒煙の立ち込める地下牢で炭化し、ピクピクと痙攣するジュリアスの凄惨な姿と、それを満足げに見つめる闇医者の横顔を交互に眺めた。
((……こいつは、思った以上に使えるな。ここで消すにはあまりに惜しい。残しておこう))
当初の計画では、ジュリアスの拷問に関わった者は、僕の秘密を握る危険因子としてこの闇医者も含めて全員まとめて口封じするつもりだった。
例の巨漢の私兵たちと共に、この地下牢ごと爆破するなりして処分する予定だったのだ。
しかし、これほどまでにこちらの緻密な要求通りに『生殺しの肉体』をコントロールできる医療技術は、裏の世界をどれほど探しても二度と手に入らないだろう。
今後の僕の計画において、この男の知識と技術は、機密漏洩のリスクに目を瞑っても惜しくないほどに、あまりにも大きな利を産む。
素晴らしい仕事を目の当たりにした僕は、冷徹な脳内リストから、闇医者の名前を静かに消去した。
生存を許すという、僕の気まぐれな慈悲だ。
「実に見事な仕事だ、ドクター・ピオ……いや、アスクレピオ・コロニス。君のその悪魔的な技術を高く評価するよ。君はこれからも、僕の専属としてその腕を振るい続けるといい」
かつて彼が捨てた本名を口にしてやると、闇医者は一瞬だけ目を見張り、それから骨の髄まで狂気に染まった笑みを深く刻んだ。
「ククク……最高の賛辞をありがとうございます、カース様。私めを真に理解し、この腕を活かしてくださる主に出会えたこと、至上の喜び。……この男の命、あと数日はこの激痛の檻の中に確実に繋ぎ止めてみせましょう」
「ああ、頼むよ。まだ死なれては困るからね」
闇医者が恭しく一礼し、さらに苦痛を引き延ばすための不気味な液体が揺れる注射器を手に、瀕死のジュリアスへと近付いていく。
五感をすべて奪われ、終わりなき苦痛の暗闇に叩き落とされたジュリアス。
『さあカース。残るは、あいつの首の骨をへし折るだけね……!』
脳内で『私』が、歓喜に震えながら終曲を急かす。
復讐の権化と化した天使が奏でる地獄のシンフォニーは、いよいよ、実の弟の首の骨をへし折るという、最愛の母へと捧げる『最終楽章』の瞬間へ向けて、最後のカウントダウンを刻み始めるのだった。
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