味方なき世界
味方なき世界の絶望に打ちひしがれるジュリアスを、さらなる地獄の旋律が襲う。
僕は、あいつに生ぬるい餓死など決して許さない。
肉体の回復と拷問への耐性を促すため、ジュリアスにはSMPC音楽院の寄宿舎にも、王侯貴族の食卓にも劣らない、徹底して栄養バランスが計算された最高品質の食事が毎日用意されていた。
だが、僕の企みに気付いたのか、あるいは愛妻の裏切りに直面して生きる気力すら湧かないのか。
ここ数日、ジュリアスは目の前に出された食事に一切口をつけようとしなかった。
だが、そんな餓死覚悟のハンガーストライキすらも、ジュリアスの味方をすることなどないのだ。
『あら、食事をしないの?なら、物を噛むための歯も必要ないかしらね……。カース、今日のメニューは【抜歯】といきましょうか?』
脳内で『私』が、クスクスと残酷に弾む声を響かせる。
((ああ、一本ずつ、丁寧に、あいつの傲慢なプライドごと、根元から引き抜いてやるさ))
僕が短く顎で合図すると、ドクター・ピオが待ってましたとばかりに、武骨な金属製のペンチをガチガチと鳴らして進み出た。
私兵たちによってジュリアスの頭部が強固に固定され、その口が無理やりこじ開けられる。
「ひ……あ、あ、止め……っ!」
「クク、若旦那。おいたはいけませんな……。これはカース様の慈悲を無駄にした罰です」
麻酔など一切なしで行われる、狂気の抜歯。
冷たい鉄の爪があいつの白い歯をがっちりと掴み、容赦のない力でミシミシと肉を引き裂きながら、根元から強引に引き抜いていく。
「——!?ーーーーーーーーッ!!!!!!」
言葉にすらならない、喉を掻きむしるような悲鳴が地下牢に木霊した。
一本、また一本と、凄まじい激痛と共にあいつの口内から誇りが剥ぎ取られていく。
ジュリアスは白目を剥き、血とよだれ、そして溢れ出る涙に顔中を塗らして、醜く悶絶し続けた。
「ふふ、これで少しは食べる気になったかな?明日からはちゃんと流動食を用意してあげるから、安心していいよ。ジュリアス」
僕は床にボトボトと落ちていく血に染まった歯を見つめながら、どこまでも優しく、慈悲深い微笑みを弟へと向けるのだった。
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