虚しい祈り
「ぷはっ……!げほっ、ごほっ……!はぁ、はぁ、はぁ……っ」
数分後、一度注水を止めさせ、顔を覆っていた布を乱暴に剥ぎ取ってやると、ジュリアスは喉を鳴らしながら激しく水を吐き出した。
酸欠のせいで白目を剥きかけ、顔面は死人のように土気色に変色している。
そして、激しい痙攣の余韻を残す身体で、彼はじっとりとした石畳に濁った涙を流しながら、今にも消え入りそうな弱々しい声で、縋るようにあの名前を呼んだのだ。
「……エッタ……、エッタ、助けて……。私を、助けてくれ……。どこにいるんだ、エッタ……」
その姿が、その無知が、あまりにも滑稽だった。
僕は暗く冷たい地下牢の中に、鈴を転がすような甘美なソプラノの笑い声を響かせた。
「ふふ、あははは……っ!」
『うふふ、本当に可笑しいわね!まだ気づいてないのよ、この哀れな操り人形は。自分が誰によってこの地獄に売られたかも知らずに、まだあの可憐な若奥様が助けに来てくれるって、本気で信じて疑ってないのね』
脳内で『私』が、お腹を抱えて大笑いするような気配と共に、酷薄な声を重ねる。
((ああ、本当に。これほど最高のエンターテインメントが他にあるかい?))
窒息の寸前で味わう、数度目の束の間の休憩時間。
僕はゆっくりとジュリアスに近づき、床に無様に這いつくばる彼の耳元へと顔を寄せた。
そして、これ以上ないほど優しく、彼が最も絶望するであろう『答え合わせ』をしてやることにした。
「ねえ、ジュリアス。……君の愛しいブルネッタ夫人なら、もうこの屋敷には居ないよ」
「——え……?」
ジュリアスの喉が、ヒクリと小さく鳴る。
水を吸って重くなった髪の隙間からは、怯えきった薄紫の瞳が、僕の顔を恐る恐る見上げていた。
少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると大変励みになります!
基本毎日更新です。
今後もよろしくお願いします!




