幻想崩壊
かつて父上は、僕の男としての機能を奪って不完全な『化け物』と呼び、ジュリアスだけを『完璧な嫡男』として盲目的に愛した。
血の繋がりこそが絶対であり、家名の存続こそがすべてだと――僕の身体と尊厳を無惨に切り刻んでまで、あの男はトラッドの血脈を信奉していたのだ。
「だが、どうだ……。これが、父上の愛したトラッドの結末だよ……」
暗い私室で、僕は自嘲気味に、けれどこの上ない愉悦を込めて呟いた。
その『完璧な嫡男』たるジュリアスが築いた新しい『家族』は、僕が突きつけた絶対的な恐怖と欲望の前に、こうも簡単に崩壊した。
血の繋がり?家族の絆?
そんなものは、いまや僕の動かす莫大な富と圧倒的な暴力の前には、紙切れほどの価値もなかったのだ。
「これで、侵入経路も完全に確保できたな」
僕は、昏い笑みを浮かべる闇医者ドクター・ピオを呼び寄せ、その背後に控える、教皇の金で集めた冷酷な私兵たちを見据えた。
彼らの瞳には、神への信仰などなく、ただ獲物を狩るための冷たい光だけが宿っている。
「――出陣だ。狙うはジュリアス・ディ・トラッドただ一人。生きたまま、僕の前に引きずり出せ」
「「「御意に、我が主」」」
影たちが音もなく、夜の闇へと溶けていく。
ジュリアス。
お前が震えながら立てこもるその頑丈な辺境伯邸は、もうお前を守る安全な城ではない。
お前を逃がさないよう閉じ込め、僕の元へ確実に引き渡すために、お前の愛しい妻が優しく用意してくれた『処刑台』だ。
最も信じていた妻に裏切られ、自慢の未来も、家名も、すべてを失うその瞬間の、お前の絶望に歪んだ顔が早く見たい。
ブルネッタ夫人の手紙を暖炉の残り火へ投げ捨てると、紙面は一瞬で赤黒い炎に包まれ、灰へと帰した。
実の弟に終わりのない永劫の地獄を与えるため、僕はついに腰をあげ、トラッド辺境伯邸への『最終行軍』の幕を、静かに上げるのだった。
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