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【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】  作者: nhhtn
復讐編

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悪魔の招待状


僕はすぐさま、ジュリアスの妻へ向けた一通の手紙をしたため、闇の斥候へと託した。

それは、恐怖と欲望で一人の女の心を激しく揺さぶり、夫を裏切らせるための、悪魔の招待状だった。


『拝啓 聡明なる辺境伯夫人

すでに大勢は決している。辺境伯たる貴女の夫に未来はない。

生き残る道はただ一つ。

大人しく、こちらへジュリアス・ディ・トラッドの身柄を引き渡すこと。

もしこちらに寝返り、ジュリアス捕縛の手引きをするならば、新王の後ろ盾たる『カース・ディ・トラッド』の名において、貴女と、間もなく生まれる貴女の息子の命、そして貴女の実家の安全と存続を約束しよう。

――もしこれに抵抗し、愚かにも夫と運命を共にするというのならば。

我が私兵は容赦なく辺境伯邸を血の海に変え、貴女の腹の中の命ごと、トラッドの血脈を完全に根絶やしにする。賢き選択をされたい』


「これを、女の寝所に忍び込み、誰にも見つからずに手渡してくれ。返事はすぐに来るはずだ」

「御意に、カース様」


影が音もなく部屋から消え去る。

手紙を送り出した後、僕は私室の豪奢な椅子に深く腰掛け、暗闇の中でゆったりとくつろいだ。

グラスに注いだ真紅の果実水が、暖炉の残火に怪しくきらめいている。


「ふふ……。ジュリアス、もうすぐお前も知ることになるんだね……」


誰もいない部屋で、僕はぽつりと呟いた。

無様に命乞いをしてまで守りたかったその命が、最も愛し、トラッドの未来を託したはずの妻によって、金と安全のためにあっさりと敵へ売り飛ばされる――その瞬間の、息もできないほどの絶望的な味を。

かつて父と弟に、――血を分けた実の家族に裏切られ、すべてを奪われた僕の痛みを。

今度は、お前がその身で、何一つ余すことなく味わう番だ。

闇の中、復讐の罠がカチリと音を立てて噛み合い、哀れな獲物の首を確実に捉えようとしていた。


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