悪魔の招待状
僕はすぐさま、ジュリアスの妻へ向けた一通の手紙を認め、闇の斥候へと託した。
それは、恐怖と欲望で一人の女の心を激しく揺さぶり、夫を裏切らせるための、悪魔の招待状だった。
『拝啓 聡明なる辺境伯夫人
すでに大勢は決している。辺境伯たる貴女の夫に未来はない。
生き残る道はただ一つ。
大人しく、こちらへジュリアス・ディ・トラッドの身柄を引き渡すこと。
もしこちらに寝返り、ジュリアス捕縛の手引きをするならば、新王の後ろ盾たる『カース・ディ・トラッド』の名において、貴女と、間もなく生まれる貴女の息子の命、そして貴女の実家の安全と存続を約束しよう。
――もしこれに抵抗し、愚かにも夫と運命を共にするというのならば。
我が私兵は容赦なく辺境伯邸を血の海に変え、貴女の腹の中の命ごと、トラッドの血脈を完全に根絶やしにする。賢き選択をされたい』
「これを、女の寝所に忍び込み、誰にも見つからずに手渡してくれ。返事はすぐに来るはずだ」
「御意に、カース様」
影が音もなく部屋から消え去る。
手紙を送り出した後、僕は私室の豪奢な椅子に深く腰掛け、暗闇の中でゆったりとくつろいだ。
グラスに注いだ真紅の果実水が、暖炉の残火に怪しくきらめいている。
「ふふ……。ジュリアス、もうすぐお前も知ることになるんだね……」
誰もいない部屋で、僕はぽつりと呟いた。
無様に命乞いをしてまで守りたかったその命が、最も愛し、トラッドの未来を託したはずの妻によって、金と安全のためにあっさりと敵へ売り飛ばされる――その瞬間の、息もできないほどの絶望的な味を。
かつて父と弟に、――血を分けた実の家族に裏切られ、すべてを奪われた僕の痛みを。
今度は、お前がその身で、何一つ余すことなく味わう番だ。
闇の中、復讐の罠がカチリと音を立てて噛み合い、哀れな獲物の首を確実に捉えようとしていた。
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