新たな生贄
「カース様、辺境伯邸にて妙なる情報を掴みました。現在、恐怖のあまり完全に引き籠もっているジュリアスですが……その正妻がどうやら次期トラッド辺境伯となる『男児』を身ごもっております。すでに臨月も近いかと」
「……へえ。子供、ね」
夜の帳が下りた私邸の一室で、斥候からの報告を聞いた瞬間、僕の脳裏にかつて実家で僕たちを縛り付け、狂わせた『完璧な嫡男』『血脈の呪い』という悍ましい記憶が、歪んだ形で蘇った。
『ジュリアスに、跡継ぎができる……。皮肉なものね。自分を縛り付け、あれほど周囲を犠牲にして手に入れたトラッドの血脈を、あいつは必死に残そうとしているんだわ……』
脳内で『私』が冷ややかな、けれどどこか憐れみを孕んだ声を響かせる。
『……でも、カース。あなたの顔、信じられないくらい悪い笑顔になってるわよ?まさか、妊婦を手に掛けるんじゃないでしょうね……?』
恐れを隠しきれない声色で、脳内の『私』が問いかけてくる。
((まさか。抵抗するなら話は別だけど、その意思確認もせず妊婦に刺客を送り込むほど、僕は非道じゃないよ……。それより『ミーナ』、これ以上ない、あいつを完全に狂わせる方法を思いついたんだ))
家族に裏切られ、最も信じていた者に見捨てられる絶望——。
僕が味わったあの地獄を、そのままあいつの骨の髄まで叩き込んでやるのだ。
「くっ……ふふ……、あははは!」
僕は思わず喉を鳴らして笑った。
あまりの愉快さに、胸の奥のドロドロとした歪んだ歓喜が抑えきれない。
ジュリアスが恐怖に怯えながらも、最後の希望として必死にしがみついている『家族』と『未来』。
その最も柔らかい部分を、内側から完全に腐らせてやるのだ。
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