半狂乱の手紙
「ふ、ふふっ……あはははは!」
((――見てよ『ミーナ』。またジュリアスからだ。これで今月、7通目だよ))
教皇庁から引き出した裏資金で調達した、誰も知らない秘密の私邸。
その一室で、僕は届けられたばかりの手紙を暖炉の炎にかざしながら、声をあげて笑っていた。
それは、かつて完璧な嫡男として、去勢された僕を見下し、哀れんでいたジュリアスからのものだった。
上質な便箋には、インクが派手に飛び散り、筆圧で紙が破れかけるほどの乱暴な文字が、半狂乱でなぐり書きされている。
『今週はモンテローゼとモルマラが死んでしまった! 僅か数週間で北部の領主たちが次々と……。まさか、まさか全てお前の仕業なのか!?答えろ、カース!!』
『お前はあの日、馬に蹴られて!爆煙の中で!地下牢の隅で!死んでいるべきだったんだ!なぜまだ生きている!?なぜ私の邪魔をする!?なぜ私からすべてを奪おうとするんだ!!?』
行間から漂うのは、濃厚な死の恐怖。
かつて僕たちの目の前で、母上の首を傲然とへし折った男の威厳など、そこには微塵も残っていなかった。
だが、僕はそんな読み辛い半狂乱の手紙であっても決して無視せず、あえて丁寧に、毎回返信の手紙を書いてやっていた。
『落ち着くんだ、ジュリアス。僕には君が何を言いたいのかよく分からない。この愚かな兄にもわかるよう、詳細に、丁寧な字で書いてほしい』
そして、それが新たな暗殺劇の開演の合図だった。
僕が筆を取ると、手綱が放たれるのを今か今かと待ち構える猟犬たちの気配がする。
親切な返信の封を閉じるのと同時に、新たな刺客を送り込む日々。
ジュリアスは見えない蜘蛛の糸に絡め取られ、じわじわと締め付けられる虫のように、もはやただ恐怖に身を悶えさせるだけの、無力で哀れな操り人形だった。
そして、ついに今日届いた最後の手紙には、これまで必死にしがみついていたプライドを全てドブに捨てた、無様な『命乞い』の言葉が書き連ねられていた。
震える筆跡。
だが、これまでのどの手紙よりも、必死に、最も丁寧に書かれたそれは――。
『悪かった。全て私が悪かった、兄上。領地も、トラッドの家名も、何もかもあなたに返譲する。私を信用できないなら修道院に――いや、離れの塔か地下牢にでも一生幽閉してくれて構わない。だから、どうか命だけは助けてくれ……。お願いだ、頼むから、これ以上私たちを追い詰めないでくれ――』
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