鳥籠
「カース様……?」
拒絶されたアイシャの瞳が、信じられないものを見るように見開かれた。
次の瞬間にはその綺麗な瞳は大きく歪み、今にも零れ落ちそうなほど大粒の涙が浮かんでいる。
「すまない。……君たちに話せることは、何もないよ」
僕はかつての忌々しい実父と同じ仕草で、パチン、と乾いた音を立てて指を鳴らした。
その瞬間、暗がりの部屋のカーテンの影、そして扉の向こうから、僕が教皇の金で買い叩き、絶対的な忠誠を誓わせた黒衣の猟犬たちが、音もなく一斉に現れて二人を取り囲んだ。
「――っ!?カース、これは一体どういうつもりだ!!」
「カース様、嘘でしょう……!?どうして……っ」
驚愕して、すぐさまアイシャを庇うように身構えるミハイルと、恐怖に身をすくませ立ち尽くすアイシャ。
向けられた彼らの視線に対し、僕は一切の感情が消え失せた冷たい瞳を向け、淡々と、機械のように言い放った。
「部屋の鍵を閉めろ。今日から二人をこの部屋から一歩も出さない。外部の情報も一切与えるな」
「はっ、仰せのままに——」
僕の言葉に、忠実な猟犬たちのリーダー格の男が、即座に恭順の意を示した。
「ただし」
一歩踏み出し、僕は黒衣の私兵たちを鋭く睨み据える。
「丁重に扱え。食事も衣服も最高級の物を用意しろ。もし彼らが反抗しても、絶対に怪我をさせないよう制圧するんだ」
「なっ……僕たちを軟禁する気か!?正気か、カース!!僕を……アイシャを裏切るのか!?」
ミハイルが激昂して叫び、僕に掴みかかろうと地を蹴る。
しかし、即座に背後から迫った屈強な私兵たちによって、容赦なく床へと組み伏せられた。
アイシャはそのあまりにも冷酷な光景にショックを隠せず、その場に崩れ落ち、顔を覆って声をあげて泣きじゃくった。
僕はこれ以上彼らの涙に胸を痛めぬよう二人に背を向け、静かに扉へと歩いていく。
そして部屋を去る直前、最後に一度だけ振り返った。
「……僕は、君たちを愛している。絶対に手荒な真似はしたくないんだ。だからどうか……どうか、僕の邪魔をしないでくれ——」
『カースーーーーーッ!!!』
その瞬間、脳内で『私』が狂ったように泣き叫び、僕を激しく責め立てた。
『あなた、ついに一線を越えたわね!?自分の復讐のためだけに、世界で一番あなたを愛してくれている親友と妻まで、力で踏みにじるなんて……!これじゃ、本当にあの父親と同じ——ただの「怪物」じゃない……!!』
((……ああ。怪物でいい。ジュリアスを殺せるなら、僕は喜んで何にだって——全人類から恐れ憎まれる悍ましい化け物にだってなってやるさ……))
僕は、脳内の『私』の悲痛な声に耳を塞ぎ、心の奥底へと閉じ込めた。
ガチャリ、と重厚な木の扉が閉まり、外側から頑丈な錠が下ろされる。
重く冷たい金属音が、僕たちの関係の終わりを告げるように廊下に響き渡った。
愛する者たちを自らの手で鳥籠に閉じ込め、これで退路は完全に断たれた。
少年は、教皇の愛欲と引き換えに手に入れた悪魔の軍勢を率いて、実の弟を地獄の底へと引きずり下ろすための『最終行軍』へと、たった一人、孤独に足を踏み出すのだった。
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