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【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】  作者: nhhtn
復讐編

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疑惑


帝国の全面降伏と調印式の完了を以て、世界を揺るがした最強の軍事協定『ABC同盟』は、その歴史的役目を終えて正式に解散していた。

ブリタニア海軍の巨艦も、アルゴスの無敵艦隊も、カイロネイア神兵団も、それぞれの母国へと静かに帰還していき、大陸には誰もが待ち望んだ一時の平穏が訪れたかのように見えた。


しかし、僕の周囲の空気だけは、世界のそれとは完全に逆行していた。


僕の精神を心配するあまり、本拠地であるフラネル共和国へ頑なに戻ろうとせず、王国に残り続けていた親友のミハイル。

そして、かつて秘密の結婚を交わし、今や僕を『イジェプタの御子』として健気に支え、どこまでも付き従う妻のアイシャ。

僕の崩壊を最も恐れ、最も近くで見守ってきた二人の存在が、僕の足元に黒い影を落としていた。


僕個人が急激に蓄え始めた、一介の歌手の報酬としてはあまりにも不自然で莫大な富。

厳重に隠蔽したはずの私邸の裏口から出入りする、血の臭いを纏った教会の闇の暗殺者たち。

そして何よりも、僕が夜ごと教皇の薄暗い私室へと消え、朝露に濡れながら虚ろな瞳で帰ってくるという、常軌を逸した異常な日々——。


僕がどれだけ彼らの前で壊れた狂人を装い、あるいは前世の知識を用いて完璧に隠蔽したつもりであっても、僕という存在を誰よりも深く愛し、その一挙手一投足を見つめ続けてきた二人の鋭い目を欺き通すことなど、最初から不可能なことだったのだ。

綻びは、僕が聖座の闇に足を踏み入れたその瞬間から、すでに静かに始まりつつあった。


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