裏切りの猟犬
さらに僕は、教皇から貸し出された教会の暗殺部隊や工作員たちの中にも、冷徹な観察の目を光らせていた。
彼らは元々ユリウス6世の手先として闇の任務をこなしていたが、その実、神への信仰心など微塵も持たない、金と暴力だけで繋がっている不届きな輩ばかりだったのだ。
教皇の手駒というよりは、教会の皮を被っただけの薄汚い犯罪組織に近い。
僕は彼らとの秘密裏の会合の場で、教皇から与えられているよりもさらに破格の『隠し報酬』――血塗られた宝石や、他国の秘密口座の目録をチラつかせた。
「君たちがどれだけ教皇猊下に尽くしても、得られるのはわずかな聖貨と、いつでもトカゲの尻尾として切り捨てられるという、口封じの恐怖だけだ」
薄暗い地下室で、僕は机の上に黄金の山を滑らせ、彼らを見下ろす。
「……だが、僕に真の忠誠を誓うなら、その倍の富と、戦後に北部の領地が片付いた暁には、新しい領地を約束しよう。どうだ、僕の下で働かないか」
暗殺者たちのリーダー格の男は、目の前の輝きに品性のない笑みを浮かべた。
「……へへっ、話が早くて助かりますよ、カース様。俺たちにとっちゃ、目に見えねえ神様よりも、ケチな教皇よりも、目の前の金の方がよっぽど信じられますんでね」
彼らはあっさりと僕の足元に跪き、教皇の裏をかく『僕だけの猟犬』へと成り下がった。
飼い主をいつでも噛み殺せる、牙を隠した猟犬だ。
『最高に悪辣な二重スパイの完成ね……』
脳内で『私』が、ゾクゾクとした興奮を孕んだ声を響かせる。
『彼らは教皇の行動パターンや、教会の秘匿された情報網、さらには聖座の弱点まで知り尽くしている。今はユリウス6世を便利なパトロンとして利用しているけれど、いつかあの生臭坊主が邪魔になった時、あるいはジュリアスをハメる時の、最強の切り札になるわよ……!』
((ふっ……その通りだ。教皇も、この猟犬どもも、すべては僕の復讐劇を完遂するための舞台装置に過ぎない))
かつて実家の理不尽な暴力と世界の身勝手なしがらみに振り回され、ただ絶望するしかなかった少年。
いまや彼は、教皇の寵愛という最悪の劇薬を骨の髄まで飲み干し、教会の闇すらも自らの手下として飼い慣らす『漆黒の支配者』へと、完全なる変貌を遂げていたのだった。
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