私兵の胎動
『……本当に、世界中の誰よりも狡猾な「寵児」に成り上がったわね、カース。教皇の財布を直接ひっくり返して、毎月のように天文学的な裏資金が、あなたの秘密口座に流れ込んでるわ。……でも、これでようやく、ジュリアスを正面から叩き潰すための「基盤」が完成したわね』
薄暗い洗面台の鏡の前で、教皇の私室から戻ったばかりの僕の脳内に、『私』のどこか乾いた、しかし確かな手応えを感じている声が響いた。
鏡に映る僕の首筋には、赤く生々しい愛欲の痕が刻まれている。
((ああ。教皇とのこの爛れた生活は反吐が出るほど汚らわしいけれど、得られる果実は極上だ。これもすべて、僕だけの軍隊を募るための資金になる……))
僕は冷たい水で顔を洗い、心の中の泥を洗い流すようにきつく目を閉じた。
毎晩のようにこの身を捧げてユリウス6世から引き出した、教会が隠し持っていた莫大な裏資金。
そして、幼き新王の後ろ盾という偽りの聖性。
これらをフルに活用し、僕は表舞台から姿を消した後も、水面下で着々と『私兵』を集めていた。
「カース様、ご指示通りの『人材』が、また数名集まりました」
暗闇に潜む教会の影が、僕の秘密の私邸でそっと報告してくる。
ブリタニアやフラネルなど、各国の法や高潔な騎士道精神に縛られる『同盟軍』とは根本から違う。
僕が巨額の金貨で雇い入れているのは、金のためなら悪魔に魂を売り払い、神をも殺す冷酷なプロの傭兵たちや、どこの国籍も持たない、公には存在しないはずの闇の軍勢だった。
彼らは正義のためではなく、純粋な利害と恐怖によって僕に縛られている。
「……よくやってくれた。彼らに伝える言葉は、いつもと変わらない。新入りがヘマをしないよう、よく言い聞かせておけ」
僕は冷徹な瞳で、集まった名簿を見つめる。
彼らに課せられた任務はただ一つ。
トラッド辺境伯領の正規軍を徹底的に蹂躙し、その中心にいる『ジュリアス・ディ・トラッドを生け捕りにすること』――それだけだ。
武家の当主らしく戦場で華々しく散るなど、そんな気高い死に様は断じて許さない。
この手でじわじわと地獄を味わわせ、無様な命乞いを一蹴し、嬲り殺しにするために、生きたまま僕の前に引きずり出してやるのだ。
天使の歌声を悪魔の軍資金へと変えた少年は、実の弟を縛り上げるための黒い網を、暗闇の中で着実に広げていく——。
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