女人禁制の闇
ユリウス6世は僕の華奢な腰を乱暴に掴み、その大きな身体へと強引に引き寄せた。
人目を忍ぶため、薄暗い教皇庁の奥深く、重厚な鍵の嵌められた彼の私室へと僕を誘う。
長く引きずる法衣の擦れる音が、妙に生々しく廊下に響いていた。
息が詰まるほどの重苦しい沈黙が続く脳内で、ついに『私』はたまらず、激しい吐き気を堪えるような声を絞り出した。
『……本当に、歴史の教科書通りね。戦場や、禁欲主義の強い宗教界のように、徹底された「女人禁制の場」において――女性に非ず、それでいて女性以上に見目麗しい少年たちは、権力者の「性処理の道具」として酷く重宝されたわ。それが男色の文化が蔓延した、歴史の最悪な裏の側面……』
そこまで一気に捲し立てた後、脳内の『私』の声は、ぽろぽろと涙をこぼすように震え始めた。
『——今あなたがとれる最も効果的なアプローチだって、頭では理解してるわ。理解してるけど……ごめん、カース。やっぱり私、どうしても気が進まないわ……!こんな、神の名を騙る生臭坊主の欲を満たすために、あなたの尊厳まで差し出すなんて……っ!!』
脳内で激しく抵抗し、必死に僕を止めようとする『私』。
けれど、僕はその悲痛な叫びを、どこまでも冷酷に、そして静かに聞き流した。
((いいんだ、『ミーナ』。尊厳なんて……母上が無残に殺されたあの日、ジュリアスのあの狂った絶叫を聞いた時に、すべて消え失せたよ。男でも女でもないこの歪んだ身体が、ジュリアスを最も凄惨に殺すための『武器』になるなら――僕は喜んで、悪魔にだってこの肉体を売るさ……))
『ごめんなさい……私が、こんな悍ましい歴史の知識を与えさえしなければ、あなたはこんな方法を思いつかなかったのに……っ!』
脳内で『私』が激しい自己嫌悪に陥り、懺悔を始めた。
だが、それは違うのだ。
例え彼女の知識がなかったとしても、遅かれ早かれ教皇やそれに代わる歪んだ権力者が僕の前に現れ、僕は自らの意思で彼らの手を取っていただろう。
手段なんて、最初から選ぶつもりはなかった。
ならば――せめて。
((『ミーナ』……何も見ず、何も聞かず、意識の水底で眠っていてくれ。君は僕の共犯者だけど、君の綺麗な魂まであんな生臭坊主に抱かれる必要はないんだ。だから、どうか……どうか、今の僕を見ないでくれ……っ))
僕の切実な、懇願するような心の声。
生涯忘れられないほどの、魂の奥底まで穢されるような経験は、この世界を生きる僕一人だけで十分だった。
『ごめんなさい、カース……本当に、ごめんなさい……っ』
脳内の『私』が、涙声と共に、深く暗い意識の底へと沈んでいくのを感じる。
完全に一人になった僕は、教皇庁の贅を尽くした寝台へと押し倒され、ボイルカーテンから透けてみえる天井の豪奢な彫刻を見つめた。
重くのしかかってくる権力者の体温と、下俗な吐息。
その生々しい苦痛の中で、僕はただ一つ、実の弟であるジュリアスの心臓をいかにして抉り出すかということだけを、暗闇の中で、孤独に、狂気的に考え続けていた——。
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