堕天使の交渉
「何でも、叶えていただけるのですね……?では――」
僕は教皇の手の甲に重ねた自分の手に、縋るように、ほんの少しだけ力を込めた。
線が細く、少女のように華奢な身体。
今にも儚く砕け散りそうな、弱々しく頼りなげな仕草。
天性の美貌に深い憂いを帯びた僕の微笑みに、ユリウス6世の息が僅かに荒くなるのが手に取るように分かった。
「先の戦争において帝国やトラッド辺境伯に加担し、王国と我が教会を裏切った不届きな北部の領主ども……。奴らを徹底的に一掃するため、教皇様直属の、腕の立つ『刺客』を手配していただきたいのです——」
「ほう……?」
ユリウス6世が興味深そうに目を細める。
僕は教皇の冷たい指先に自分の頬を委ねたまま、淡々と、しかしどこか甘えるような声音で言葉を続けた。
「表の大軍を動かせば、またブリタニア女王やフラネルの英雄が嗅ぎつけ、平和を盾に邪魔をしてきます——。ですから、教会がその懐に囲う、闇の使者たちを僕に貸し出してくださいませんか……?」
北部の親帝国派の領主たちを、教会の暗殺部隊によって音もなく排除し、その空いた所領と兵力を僕個人の『私兵』として丸ごとすり替えていく。
これが、ジュリアスを地の果てまで追い詰め、包囲するための、血塗られた第一歩だ。
ユリウス6世は僕の冷徹極まる提案に一瞬だけ警戒するように目を細めたが、僕の歪んだ身体が放つ肉欲の呪いに抗えなかったのか、すぐにクククと喉を鳴らして低く笑った。
「……なるほど、素晴らしい。本命は君の復讐だが、結果として教会の権威を脅かす不穏分子どもを綺麗に掃除してくれるというわけか。いいだろう、カース君。その可愛い我が儘、私が全て叶えてあげよう。我が教会の誇る最精鋭の影、君の好きに使うといい——」
そう言って、教皇は満足げに身を乗り出してきた。
だが、その直後、楽屋の空気が凍りつくような粘着質な声が僕の耳元で囁かれる。
「……ただし、その破格の報酬に見合う見返りは、今ここで支払ってもらうがね」
「――っ」
教皇の太い指が、僕の顎を強引に持ち上げる。
逃がさないと言わんばかりに固定された視線の先、ユリウス6世のギラついた瞳が求めているものは、あまりにも明白だった。
『カース……ッ!!』
脳内で『私』が恐怖に悲鳴をあげる。
けれど、僕は拒まない。
ただうつむき、受け入れるように静かに睫毛を伏せた。
この忌々しい呪われた身体がさらに穢されようとも、最愛の母を惨殺したあの狂人の首をこの手で捩じ切れるのなら——これ以上の安い代償はなかった。
少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけると大変励みになります!
基本毎日更新です。
今後もよろしくお願いします!




