憂いのソプラノ
ステージの上の僕は、以前のような、純粋な輝きを放つ天使ではなかった。
最愛の母を無残に殺され、心に深い傷を負った悲劇の少年――その天性の美貌に、どこか退廃的で暗い『陰』を纏った僕の姿は、観客たちの歪んだ庇護欲と狂信を、異常なまでに駆り立てた。
僕がただ舞台に立ち、憂いを帯びた瞳で遠くを見つめるだけで、客席からは悲鳴のようなため息が漏れる。
『狂気的な人気ね……』
割れんばかりの拍手の中、舞台袖へと戻る僕の脳内で、『私』が呆れたような、しかし感心したような声を響かせた。
『現代日本の芸能界でも「完璧なアイドル」より「どこか壊れそうな脆さを持つスター」の方が、圧倒的に狂信的なファンがつきやすいのよ——。ほら、見てみなさいよ。今日の演奏だけで、普通の貴族の年収どころか、本物の軍艦が一隻買えるレベルの寄付が集まってるわ……!』
((ハハッ……チョロいものだな。僕を哀れむ涙の数だけ、ジュリアスをじわじわと嬲り殺すための軍資金が集まる……))
僕は胸中であざ笑いながら、差し出された山のような目録を冷淡に受け取る。
僕が舞台裏で受け取る莫大な報酬や、盲目的なパトロンたちから贈られる高価な宝石、美術品の類。
それらはすべて、アイシャやミハイルの目すら届かない信頼できる秘密の口座へと隠され、ジュリアス率いるトラッド辺境伯軍を圧倒するための『僕だけの軍隊』を組織する資金へと、着実に回されていった。
しかし、トラッド辺境伯の屈強な正規軍を正面から完全に叩き潰して、ジュリアスを生け捕りにするには――これだけの巨額の富を以てしても、まだ足りない。
((もっとだ……。もっと強大で、国際法すら鼻先で笑い飛ばし、僕の命令一つで非道な兵力を即座に貸し出せるような、絶対的な闇の権力が欲しい……))
焦燥と復讐心に焦がされながら、数度目のチャリティコンサートを終えた夜のことだった。
観客の熱気が引き、静まり返った楽屋の舞台裏。
鏡の前で衣装を解こうとしていた僕の背後で、空間の空気が、まるで行き止まりに突き当たったかのように重く冷たく沈み込んだ。
鏡の中、僕の口角が歪に吊り上がる。
ついに、僕が求めていた本物の『大物』が、その姿を現したのだ。
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