陰を纏った天使
やるべきことは決まった。
僕は、ベッドサイドで僕の手を握り、心配そうにその瞳を濡らし続けるアイシャやミハイルに対し、少しずつ、計画的に食事の量を増やしていった。
もちろん、一気に元気になれば怪しまれる。
あくまで「生きる気力を少しずつ取り戻しつつある」という、周到なフェイクを交えながらだ。
「……少し、前を向いてみようと思うんだ」
ある日、僕は虚ろだった瞳にわずかな光を灯す演技を混ぜ、掠れた声でそう呟いた。
その瞬間。
「カース様……っ!」
「……っ、ああ!そうだ、それでいいんだカース!」
アイシャは激しく胸を詰まらせ、ミハイルはまるで奇跡でも起きたかのように大粒の涙を流して喜んだ。
僕が腹の底で凄惨な復讐のパズルを組み立てているなど、純粋な二人は微塵も疑っていない。
それからの僕は、周囲に対して『心の傷を癒すためのリハビリ』と称し、音楽活動への段階的な復帰を宣言した。
「まずは、僕を育ててくれたあの場所から、もう一度歌い直してみたいんだ」
そうして、僕はかつて在籍したSMPC音楽院での記念演奏や、戦争によってすべてを失った戦災孤児たちのためのチャリティコンサートのステージに再び立つようになった。
『……本当に、もう大丈夫なのか?無理だけはするんじゃねぇぞ』
『快復は喜ばしいが、ステージへの復帰は些か急ではないか?』
あまりにも劇的な快方へ向かう僕の姿に、スカロやグロリアーナなど、一部の鋭い者たちは怪訝な表情を浮かべ、戸惑いや疑念を綴った手紙を送ってきた。
しかし、そんな猜疑心など、一瞬で圧殺されることになる。
世界が、あの奇跡の歌声――『権天使』の完全復活という大ニュースに、狂わんばかりに熱狂したのだ。
「ああ、なんて健気で、美しい御方なのだ……!」
「最愛の母を殺された絶望から、人々のために立ち上がられるとは……まさに天使——神の御子だ!」
僕を哀れみ、涙を流して同情する王侯貴族や大富豪たちは、以前にも増して手厚い支援や莫大な寄付を僕の元へ注ぎ込むようになった。
ステージに立つ僕が、その純白の衣装の裏で、差し出される金貨や宝石の額を冷徹に計算しているとも知らずに。
彼らが注ぎ込む富こそが、ジュリアスを縛り首にするためのロープの代金になるのだ——。
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