仮面
母上の衝撃的な死から、さらに数週間が経過した。
『ABC同盟』の最高権力者として世界の頂点に君臨していたはずの僕は、廃人同然の状態で、再びフラネル共和国のポルネー子爵家へと身を寄せていた。
「カース様……どうか、どうか一口だけでも、温かいスープを飲んでください……!」
カーテンを閉め切った薄暗い寝室に、アイシャの悲痛な声が響く。
彼女は不自由な脚を引きずりながら、毎日欠かさずベッドサイドへと通い、涙ながらに僕の衰弱を心配してくれていた。
その健気な姿は、見る者の胸を締め付ける。
部屋の隅では、親友のミハイルもまた、変わり果てた僕の姿に深く心を痛めていた。
「カース……。頼むから何か言ってくれよ……」
いつもなら真っ直ぐに僕を鼓舞してくれる彼も、今回ばかりはかけるべき言葉が見つからない様子で、ただ悔しそうに拳をきつく握りしめている。
しかし、静かにベッドに横たわる僕が二人の必死な呼びかけに応じることはなかった。
差し出される食事を頑なに拒み、生気を失った虚ろな瞳で、ただ天井の一点を見つめ続ける。
そして時折、思い出したかのように、壊れた手回しオルゴールのような儚さで――けれど恐ろしいほどに純粋で、美しく響く天上のソプラノで、短い賛美歌のフレーズを呟くように歌うのだ。
「——また会う日まで……神のまもり、汝が身を離れざれ……」
すでに亡き母に宛て、無事と再会を祈る賛美歌を唱える。
その姿はあまりにも痛々しかった。
「権天使カース・ディ・トラッドは、最愛の母を失った耐え難い現実に、今度こそ本当に精神が崩壊してしまった」
ミハイルも、アイシャも、そして天使の動向に目を光らせているであろう世界中の誰もが、その破滅を信じて疑わなかった。
——だが。
すべては、僕の冷徹な『演技』に過ぎなかった。
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