決戦の地、SMPC音楽院
王都の中心にそびえ立つ、純白の大理石で造られた芸術の殿堂。
そこが、大陸最高峰と謳われる『サントマリオ・ピエタ・カプアナ音楽院』だ。
試験会場の待合室には、大陸中から集まった『天才』や『神童』と呼ばれる少年たちがひしめき合い、張り詰めた緊張感が漂っていた。
「おい、見ろよ……!あの女みたいにキレーな顔の奴、推薦枠の伯爵令息だろ?」
「ふん、実技免除のくせに何しに来たってんだ?お貴族さまの遊び場じゃねえんだよ、ここは」
周囲からの突き刺さるような品定めと、軽蔑の視線。
しかし、僕の脳内では『私』が歓喜の声を上げていた。
『ふふふ……これこれ!このテンプレなアウェイ感、最っ高に燃えるわね!盛大に手のひら返させてやろうじゃないの!』
「次、受験番号801番。カース・ディ・トラッド」
副学長が厳かな声で僕の名を呼ぶ。
僕は深く息を吸い込み、審査員たちが並ぶ重厚なホールへと足を踏み入れた。
中央に立ち、伴奏のピアニストに軽く釈会する。
長机に並ぶ審査員たちは「推薦枠のお坊っちゃんがなぜ実技の場に?」と退屈そうに書類をめくっている。
((さあ、『私』の魂、そして一年間の地獄のレッスンの成果……たっぷり聴かせてあげるよ!))
前奏が終わり、僕は静かに口を開いた。
「……ーーッ♪」
その瞬間、ホールの空気が"爆ぜた"。
放たれたのは、人間の限界を超えた、どこまでも透明で、圧倒的な声量を持つ奇跡のボーイ・ソプラノ。
前世のクラシック音楽の黄金期を支えた完璧なベルカント唱法と、今世の『MKTPボディ』だからこそ出せる、金属的なまでに鋭く、それでいて絹のように滑らかな超高音。
びりびりと空気が鳴動し、天井の巨大なシャンデリアが小刻みに震えだす。
――パリンッ!
ついに耐えきれなくなった幾つかの硝子の燭台が割れた。
砂粒のような細片がホール中央、僕の真上に振り注ぐ。
天窓から射しこむ陽光を受けて、霧華のように輝くガラス片。
中性的な美貌と驚異的な歌唱力。
光を纏った僕は、神の使いが如く。
審査員らの目には、さぞ神々しく映ったことだろう。
パサ……と静かな音をたて、審査員たちの手から書類が滑り落ちる。
つい先程まで退屈そうに、椅子の背にもたれ掛かっていた彼らの目が、驚愕で見開かれた。
ポカンと口を開き、閉じられないでいる者。
あまりの心地よさに身を乗り出し、恍惚の表情で聴き入る者。
ずり落ちたペリュックを直そうともせず、食い入るようにこちらを見つめる者。
まさに三者三様の、素晴らしいリアクションだ。
((な、なんだこの響きは……!?九歳にして、すでに完成された横隔膜のコントロール……!))
((まるで生けるストラディバリウス……!おぉ、音楽神の申し子よ……!))
((まさに天使の歌声……!間違いない、これは……歴史を塗り替える『カストラート』の誕生だ……!!))
ホールの隅でコッソリ覗き見していた他の受験生たちも、あまりの格の違い、次元の違いに絶望し、ただただ開いた口が塞がらない様子だった。
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