脳内会議:痛快なカウンター
追手を完全に振り切り、ようやく一安心。
ガタゴトと心地良く揺れる馬車の中で、僕は現地での実技試験に思いを馳せていた。
((さあて、王都に着いたらどんな演出で審査員たちの度肝を抜いてやろうかな))
そんな企みに胸を躍らせていると、脳内の『私』がフッと表情を緩め、どこかスッキリした様子で腕を組んだ。
『それにしてもさ、あなたのお父様ったら本当に酷いと思わない!?息子を政略の道具か不良品のようにしか扱わなくて、私ずーーっと気に食わなかったのよね!ねえ、さっきの最終試験の時の顔見た?「まさか本当にここまでの化け物に育つとは……」って絶句してたじゃない。あー、痛快だわーー!カース、あなた本っ当に最高よ!』
脳内で快哉を叫ぶ『私』に、僕は苦笑しながら応じる。
((あはは、確かにね。まあ、政略結婚や血統の存続は貴族の絶対的な義務だから、その期待に応えられなくなった以上、父上のあの冷たい扱いも仕方ないとは思うけどさ。……でも、確かにあの父上を完璧に出し抜けたのは、最っ高に気持ちよかったね!))
少しばかり、この世界の貴族の常識を教えてやるつもりで大人の返事を返してみたけれど。
その一方で、常識に囚われず、自由な発想で絶望を打開していく『私』の存在を、僕はどこか眩しく、羨ましく感じていた。
そもそも、僕がこうして音楽家を目指すことになったのだって、前世の彼女の知識があったからこそだ。
((大丈夫。僕には実家のコネと磨き上げた歌声が、そして『私』には、この世界の常識に嵌まらない知識と圧倒的な発想力がある))
ドライでどこまでも前向きな『私』のメンタルに引っ張られたのか、僕の胸の内にもじわじわと小悪魔めいた達成感が湧き上がってくる。
すっかり愉快な気分になった僕は唇を尖らせて鼻歌を歌い始めた。
曲は、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」より『秋』。
これからの出会いと収穫の季節には、まさに相応しい名曲だ。
……まあ、実際の入学シーズンはもう少し先なんだけど。
車窓から見える景色は色づき始めた並木道。
心地良い蹄の音を響かせ駆ける馬車は、僕たちを王都へと運んでいく——。
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