ないものねだり
ジュリアスは狂ったように自らの髪を掻きむしり、地を這うような怨嗟の声を上げた。
その端正だった顔は醜悪に歪み、見張りの兵士たちが思わず武器を構え直すほどの異様な気配を放っている。
「いつもそうだ!カース、カース、カース、カース!!どんなに私が努力しても、父上に認められても!母上、貴方の目はいつもあの『化け物』だけを追っていた!!」
「ジュリアス、一体何を……っ、おやめなさい!」
母上は恐怖に身体を震わせながらも、我が子の狂態を止めようと悲痛な声をあげる。
しかし、その拒絶の姿勢さえもが、今のジュリアスにとっては燃え盛る業火に油を注ぐ結果にしかならなかった。
「何故だ!?何故母上は私を認めない!?たった一分早く生まれただけの『出来損ない』が……『去勢された化け物』が、そんなに大切か!私はトラッド辺境伯家を継ぐ、完璧な嫡男だぞ!!」
絶叫するジュリアスの瞳には、世界を呪うようなどす黒い憎悪と、それ以上に深い底なしの『絶望』が渦巻いていた。
その姿を見た瞬間、僕の脳裏には、かつて冷酷な父上から投げつけられた「貴様さえいなければ、ジュリアスが完璧な嫡男になれた」という呪いの言葉が鮮烈に蘇った。
((ああ……そうか。僕は父上の愛に飢え、ジュリアスは母上の愛に飢えていたんだ。僕たちは双子でありながら、互いに『持たざるもの』を羨み、親の歪んだ偏愛に振り回され続けていた——ただの哀れな子供だったんだ……))
胸の奥を鋭い刃で抉られたような感覚の中、脳内からは、やはり衝撃を隠せない『私』の悲痛な声が響く。
『そんな……!なんて最悪な家族の因縁なのよ……!これじゃ、誰も救われないじゃない……っ!』
僕はこれまで、実家にすべてを奪われた被害者だと思い込んでいた。
けれど、完璧に見えたあのジュリアスもまた、僕という存在の影で、終わりのない飢餓感に精神を狂わされていたのだ。
僕は、かつて憎んで止まなかった優秀で高慢な弟に対して、生まれて初めて、心の底から『憐れみ』を感じていた。
——しかし。
その微かな憐れみすらも、この直後にジュリアスが放った最悪の一手によって、永遠に救いのない奈落へと突き落とされることになる。
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