誓い
ブリタニアの牽制、そしてスカロの言葉によって、僕は『対話と歌による解決』という一筋の光を見出しかけていた。
憎しみの連鎖を断ち切る術が、僕の音楽にあるのかもしれない――。
そんな希望が、胸の奥で確かに芽生え始めていたのだ。
だが、現実はそこまで甘くはなかった。
直接国土を無残に蹂躙され、心の拠り所である大神殿を跡形もなく破壊し尽くされたカイロネイア神王国の人々にとって、帝国の一般国民が『憐れな被害者』だなどという理屈は、吐き気のするような綺麗事に過ぎなかった。
彼らの魂が求めているのは、対話などではない。
どこまでも徹底的な、帝国の殲滅という名の血の生贄だった。
「帝国に慈悲など不要!奴らの薄汚い血で、焼かれた神殿の礎を洗い流すのだ!」
「今こそ神罰を下すとき!侵略者の息の根を止めよ!」
王宮の一角で行われた作戦会議の場は、荒れに荒れていた。
円卓を囲む主戦派の神官や将軍たちの口からは、神への祈りではなく、呪詛に満ちた怒号ばかりが飛び交う。
だが、何よりも僕を驚かせ、戦慄させたのは、その怒号の嵐の片隅にいたアイシャの姿だった。
普段は誰よりも穏和で、僕の身の回りの世話を甲斐甲斐しく焼いてくれていた、あの純真な巫女の少女。
彼女はいま、大理石の床を見つめたまま、拳を皮膚が裂けて血がにじむほど強く握りしめていた。
その瞳の奥には、見たこともない暗い復讐の炎が、チリチリと不気味に燃え盛っている。
「カース様……」
会議が一時中断した際、アイシャは不自由な右脚を庇いながらゆっくりと僕の元へ歩み寄ると、蚊の鳴くような、けれどひどく冷え切った声で呟いた。
「私は、どうしても、どうしてもあの者たちを許せません。神殿を、私たちの清らかな祈りを、土足で踏みにじった帝国を……この手で八つ裂きにしなければ、私の魂は一生、救われないのです……」
そう語る彼女の華奢な肩は、怒りと悲しみのあまり激しく震えていた。
その姿は、世界への復讐と呪いだけで呼吸をしていた、つい先日までの僕の姿そのものだった。
暗い情念に囚われ、自らを焼き尽くそうとしている彼女の横顔を見たとき、僕は確信した。
言葉の正論や、生ぬるい政治的な妥協案では、彼女の、そしてカイロネイアが抱える深い呪縛は絶対に解けないのだと。
ただ「許せ」と言うだけでは、彼女たちの引き金を引く指を止めることはできない。
ならばもっと強く、彼女たちの人生を根底から塗り替えるほどの、圧倒的な『別の未来』を――僕自身の手で創り出し、示さなければならない。
僕は静かに彼女の震える手の上に自分の手を重ね、その暗い瞳をまっすぐに見つめ返した。
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