沈黙のブリタニア
王都が狂信的な『帝国殲滅』の嵐に包まれる中、ただ一つ、その異常な熱狂から完全に距離を置いている国があった。
――ブリタニア諸王国。
彼らは『ABC同盟』の中で唯一、今回の王都上陸作戦に参加せず、海上からの牽制に徹していた。
それゆえに、街を支配する集団心理の狂気に染まることなく、極めて冷静に僕たちの『暴走』を見つめていたのだ。
ブリタニアの女王グロリアーナは、僕の放った苛烈な侵略の宣言に対し、明確な拒絶の親書を送りつけてきた。
「我がブリタニアは、大義なき虐殺を認めない。主犯たる皇帝及び帝国軍部への制裁には応じるが、罪なき一般国民を巻き込む無差別な侵略戦争に、我が軍が加担することは断じてない」
さらに、前線で僕の護衛を務めてくれていたはずのキャプテン・スカロもまた、アルゴス無敵艦隊の行く手を阻むように、最新鋭の火砲を搭載した自らの戦艦を並べ、不敵に立ちはだかったのだ。
「おい、アルゴスの野郎ども……。全員、目ェ血走ってんぞ。……俺たちブリタニアと、またこの海で血の雨を降らせるつもりか、あァ?」
いくら僕の手元にアルゴス無敵艦隊、そしてカイロネイア神兵団という強大な戦力があるとはいえ、世界最強の一角であるブリタニアの海軍力を完全に敵に回すのは、あまりにもリスクが大きすぎる。
『カース、お願いだからここで踏みとどまって!グロリアーナとスカロの言う通りよ!狂っているのは今の同盟軍の方なんだわ!!』
脳内の『私』の必死の叫び、そしてスカロが突きつけてきた現実的な脅威に、肥大化していた僕の頭は、一瞬で冷や水を浴びせられたように冷えていった。
僕は奥歯をギリ、と噛み締め、辛うじて残った理性を繋ぎ止めると、条件付きでその要求を飲むことにした。
「……分かりました。これ以上の無差別な進軍は止めましょう。ただし、条件があります」
僕は冷徹な瞳でブリタニアの使者を見据え、その喉元に条件を突きつける。
「一つ、現在帝国に拘束されている全捕虜の解放、及び、帝国の占領地から我が国の『国土を完全に回復』すること。
二つ、人質となっている我が母エルザの身柄を『無傷で保護』すること。
そして最後、王国を裏切った我が弟——ジュリアス・ディ・トラッドの身柄をこちらに引き渡し、『即座に処刑』すること。
これが守られるなら、僕は引き下がります」
そう告げて、僕は一先ず、帝国の全面焦土化という最悪の狂奏曲を取り下げたのだった。
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