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カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜  作者: nhhtn
動乱編

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独裁者誕生


『……どうして。どうしてこんなことになっちゃうのよ……!!』


脳内で『私』はたった一人、絶望に押しつぶされそうになりながら頭を抱え、激しく取り乱していた。

割れんばかりの民衆の歓声が響くこの華やかな王宮のなかで、彼女だけが、少年の背後に広がり始めた底なしの暗鳴に気づいていたのだ。

それは、かつて現代日本という平和な世界で生まれ育ち、歴史の教科書を開いたときに何度も目にした、おぞましい既視感デジャヴ

熱狂する民衆の圧倒的な支持を集め、既存の法をも超越していく絶対的なカリスマ。

自らの正義を声高に掲げ、過去の悲劇を都合のいい免罪符にして、他者を、他国を容赦なく蹂躙していく血塗られた怪物。

いま、目の前に立っているカース・ディ・トラッドという少年は、まさにその人類の暗黒史が生み出してきた、最悪の『独裁者』そのものの道を、凄まじい勢いで駆け上がろうとしていた。


((どうしたんだい『ミーナ』。そんなに怯えて。僕たちは勝つんだ。もうすぐ、すべてを取り戻せるんだよ?))


脳内で語りかけてくる少年の声には、一切の悪意も、躊躇も感じられなかった。

だが、だからこそ、恐ろしいのだ。

鏡に映る自分の顔をそっと見つめる。

そこに佇む少年の姿は、神々しいほどに美しく、そして完全に冷え切っていた。

すべてを見下すその瞳は、もはや人間のそれではない。

かつて不条理な現実に涙し、それでも純粋に歌を愛していた薄幸の少年は、もうどこにもいない。

世界をさらなる戦火と混沌で包み込む大悪党ジョーカーが、民衆の狂信的な拍手喝采に包まれながら、今まさに完成しようとしていた。


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