すり替わる聖戦
母上を救い出し、僕たちのすべてだった音楽院の平和を取り戻す。
始まりは、そんな小さく、純粋な願いからだった。
理不尽に奪われた居場所を取り戻し、守り抜くためのただの防衛戦だったはずだ。
しかし、三大国を束ねる『ABC同盟』の最高指揮官となり、新王の後ろ盾として神格化された今、その戦いは気づけば、終わりのない凄惨な『侵略戦争』へとすり替わっていった。
僕が冷徹に「戦争を終わらせない」と宣言するたびに、王都を埋め尽くす民衆や同盟軍の兵士たちは、狂信的な歓声を上げて僕を称えた。
「イジェプタの御子、カース様が帝国を滅ぼせと仰っているぞ!」
「悪逆なる帝国に慈悲など不要!根絶やしにせよ!」
「全てを捧げよ! 天使様の御心のままに――!」
王都の地鳴りのような咆哮を浴びながら、僕はその熱狂の濁流に身を委ねていた。
かつて神殿を焼かれ、肉親を殺されたカイロネイアの民の深い怨念も。
海の覇権を狙うアルゴスのぎらついた野心も。
そして、聖なる御子を崇めるカスティエラの狂信的な熱狂も。
大陸中のあらゆる負の感情が、僕という『拡声器』を通して増幅され、帝国をこの地上から完全に消し去ろうとする巨大な暴力へと膨れ上がっていく。
彼らは僕の私怨とカリスマを利用して自らの欲望を満たし、僕は彼らの狂信を利用して復讐の手駒とする。
互いが互いを絶対の正義として祭り上げ、引き返せない破滅へと突き進む、最凶の悪循環。
民衆の上げる歓声は、もはや賛美歌などではない。
それは、世界を灰にするための『宣戦布告の祝奏』だった——。
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