殺戮の天使
「……とにかく、母上を助け出してこそ、この戦争は終結だ」
静寂に包まれた広大な玉座の間に、低く冷ややかな僕の声が硬質に響き渡った。
そこには、かつて神聖古語を操り、天上の賛美歌を歌い上げていた頃の、あの心地よい慈愛のニュアンスなど、微塵も残されてはいない。
それは有無を言わせぬ絶対者の響きであり、ただ冷徹に、目の前の盤面を処理しようとする覇王の声音そのものだった。
「それまでは、絶対に終わらせない。敵も、味方も関係ない。……たとえこれから何万人、何十万人の犠牲が出ようとも、僕は地の果てまで帝国を追い詰め、皆の祖国を、愛する者を取り戻す。邪魔する者は、誰であれ容赦はしない——」
淡々と紡がれるその言葉には、かつて己の無力さに打ちひしがれていた少年の優しさなど欠片もなかった。
気がつけば、僕の冷徹な視線は、かつて自分を陥れ、暗い地下牢へとハメ落とした因縁の玉座すらも通り過ぎていた。
より高く、より傲慢な場所――この世界のすべてを掌の上で転がし、見下ろすことができる絶対的な高みへと、その瞳はまっすぐに向けられていた。
『カース、お願いだから正気に戻って……!あなたが今言ったこと、それじゃあのクソ親父やレオンと全く同じじゃない!目的のためなら他人の命なんてどうなってもいいっていうの!?』
脳内で、『私』が悲痛な叫び声をあげる。
かつてないほど激しく、狂おしいほどに僕の魂を揺さぶろうとする拒絶の叫び。
しかし、肥大化した万能感に包まれた僕の心には、その必死な警告すらも虚しく通り過ぎるだけだった。
((同じ?違うよ『ミーナ』。僕はただ、奪われたものを取り戻そうとしているだけだ。これは正当な権利の主張だよ。そのためなら、世界を敵に回したって構わないさ……))
冷え切った自意識のなかで、僕は平然とそう返し、自身の両手を静かに見つめた。
他人の命など、目的を果たすためのただのコストに過ぎない。
いつしか僕の思考は、かつて僕を最も苦しめた『強者の論理』そのものへと染まりきっていた——。
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