脳内会議:違和感
『……ねえ、カース。ちょっと、おかしいと思わない?』
歓声に沸くバルコニーの特等席で、脳内の『私』が、冷水を浴びせるような低く張り詰めた声をあげた。
((え……?何がだい?すべては順調だよ。王都を無血で奪還できて、教皇猊下も両陛下も救い出せた。ミハイルや同盟軍のおかげで、敵は完全に包囲されているんだ。帝国ももう何もできっこないよ))
僕は民衆へ向けて完璧な微笑みを崩さないまま、内心で怪訝そうに問い返す。
これ以上ない大勝利の盤面のはずだ。
しかし、彼女の声音はますます険しさを増していく。
『そう、それよ。「順調すぎる」のよ。考えてもみなさい、あのレオンハルトよ?あいつが、いくら一点突破の末に消耗し、残った戦力も本国防衛に割かれたからって……王宮の地下に、自分たちの支配を脅かす「王国復活の最大の芽」である正統な王子を、みすみす生き証人として残していく?いいえ、そんなの絶対ありえない。退却する時にその場で殺すか、せめて人質として本国へ連行するのが当然でしょう。事実、監禁中、第一王子の方はまともな治療もされずに病死させられているのよ?』
理路整然としたその指摘に、僕の笑顔が内側から凍りつきそうになる。
だが、僕は必死にその不安を否定しようと言葉を探した。
((それは……。第二王子はほんの赤子だし、いくら帝国軍でも手にかけるのは気が引けて、現地の衛兵が独断で見逃したんじゃ……))
『そんなのただの希望的観測よ!この最悪のタイミングで、私たちが今一番欲しかった「最高のカード」が都合よく現れるなんて……。これじゃまるで、誰かが用意した「お誂え向きの舞台装置」じゃない……?』
酷く怯える『私』の言葉が、鋭い楔となって僕の胸を刺した。
その瞬間、僕の背中を、どろりとした冷たい汗が流れ落ちていく。
言われてみれば、そうだ。
あまりにも話が出来すぎている。
まるで、僕たちがこのルートを選ぶことを最初から知っていたかのように――すべての歯車が、あまりにも美しくカチリと噛み合いすぎているのだ。
僕たちが踊らされているのは、勝利の賛美歌などではなく、敵が用意した最悪の夜想曲なのではないか。
民衆の歓声が、急に遠くの地鳴りのように聞こえ始めていた。
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