レッスン完遂、いざ聖地へ!
「カース様、合格です……!ついに、ついに私の一等地スタジオが……いえ、あなた様の輝かしい未来が、今ここに完全に見えましたぞ!!」
余計な本音が丸聞こえな気がするけれど、今の僕は信じられないほどの達成感に満ち溢れている。
気分が良いから、その汚い欲望は見逃してやろうとも。
「よくやった、ロベルト。これでお前の口座に約束の報酬を振り込めるというものだ。……カース、トラッド伯の名に恥じぬよう、王都でも励んでこい」
本日の最終試験を以て、地獄の365日がついに幕を閉じた。
ロベルト先生は僕のあまりの成長(と金の亡者としての執念)により、最後の方は血涙を流さんばかりの熱量で指導してくれた。
父上も、僕の声量と技術を目の当たりにし、ついに『サントマリオ・ピエタ・カプアナ音楽院』への推薦状に直筆のサインと辺境伯爵家の蝋印を押してくれたのだ。
そう、僕はただの受験生ではない。
実力者が無条件で迎え入れられる『実技試験免除の特別推薦枠』を、実力でもぎ取ったのである!
「カース、本当に……本当に大丈夫なのですか?王都は遠いですし、まだお体も万全というわけではないのでしょう……?それに、あなたが家を出て行ってしまうなんて、お母様は寂しくて……っ」
父上の素っ気ないに激励に続いて、僕の手を両手でぎゅっと握りしめて涙ぐんだのは、母のエルザだった。
愛情深く、そして人一倍心配性な母上。
実は一年前、父上に跡継ぎ辞退を申し出た直後、母上は僕の部屋へ血相を変えて飛び込んできていた。
『本当に跡継ぎを辞退するのつもりなの!?』
『ジュリアスに譲るなんて駄目よ、あなたは長男なのに、お父様は冷酷すぎるわ!』
と、涙ながらに僕を問い詰めたのだ。
押しが弱く、普段は父上の決定に決して逆らえない母上が、僕の廃嫡にだけは裏で必死に反対してくれていた。
当然、今回の音楽院受験にも、「そんな厳しい世界、病み上がりの体に障ります!」と猛反対だったのだが……。
先ほど行われたロベルト先生による最終試験に立ち会い、僕の歌声を聴いた瞬間、母上はハンカチで口元を押さえて号泣。
その圧倒的実力と本気を認め、今では心配しつつも、誰より熱く僕の背中を押してくれている。
「大丈夫ですよ、母上。僕はこんなに元気です。それに、僕の夢を応援してくれるって、さっき約束してくれたじゃないですか」
僕が優しく微笑みかけると、
「ええ、ええ、そうね……。体だけは本当に気をつけるのよ」
と、なおも名残惜しそうに僕の頬を撫でる母上。
そんな妻子の様子を、少し離れたデスクから見ていた父上が、フンと鼻を鳴らす。
「……もうよい、エルザ。往生際が悪いぞ。カース、お前は出立の準備に取り掛かれ」
「はい、父上。行ってまいります」
父上の一言で、ようやく母上も僕の手を離してくれた。
本音を言えば、僕の夢を鼻先で嗤ったジュリアスに、この完璧な推薦状を突きつけ、見返してやりたかったのだが、残念ながらあいつは今日、領地経営の視察とかでこの場に居ない。
こうして、父上の冷徹な期待と、母上の深い愛情と心配、そしてロベルト先生のギラギラした欲望を背負い、僕は執務室を後にした。
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