人間卒業スパルタレッスン
こうして、僕の約一年間に及ぶ猛スパートが始まった。
「はい、お腹の支えが足りない!馬に蹴られたのはそこじゃないでしょう!もっと横隔膜を意識して!」
「次はソルフェージュと初見視唱です!はい、この譜面を初見で、かつ完璧なベルカント唱法で歌いなさい!」
ロベルト先生のレッスンは、文字通りの地獄だった。
朝から晩まで、発声練習、発音矯正、古典歌曲の暗譜、果ては高度な音楽理論の叩き込み。
だが泣き言を漏らすわけにはいかない。
ロベルト先生は生徒が弱音を吐けば吐くほど厳しくなるタイプのドS教師だと本能が察していた。
故に、僕は伯爵令息にあるまじきブタ顔を晒し、ヒンヒンと喘ぎながらも必死で食らいつく。
((……きっっっつい……!の、 喉が、お腹が引き千切れる……ッ!))
それでも一分一秒ごとに心がバキバキに折れそうになる。
だが、その度脳内の『私』がピシパシとムチを振るい、発破を掛けてくるのだ。
『ダメよ、カース!今の声、響きが後ろに落ちてる!ほら、もっと軟口蓋を上げて!鼻腔の奥に響かせるのよ!前世で聴いたレジェンド歌手たちの歌声を思い出しなさい!』
かつてはプロを目指した音大生の的確すぎる脳内ディレクションと、一攫千金を狙う家庭教師の狂気的な熱量。
二人の『音楽ガチ勢』に挟まれ、徹底的にシバかれた僕の身体は、凄まじいスピードで『本物の楽器』へと変貌を遂げていく。
――それから、数ヶ月が経つ頃。
僕の歌声は、レッスンルーム前の廊下を通りがかったメイドたちが思わず足を止め、仕事を忘れて聞き惚れ、気づけば涙を流しているほどの、神聖で圧倒的な響きを帯び始めていた――。
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