復讐の誓い
背後で神殿の天井が完全に崩落する、凄まじい轟音を聞きながら、僕は彼女を背負って、間一髪で燃え盛る爆炎の外へと脱出した。
ゴホゴホと激しく黒煙を吐き出し、咳き込みながら、彼女は僕の背中の上でゆっくりと目を見開いた。
そこに広がっていたのは、幼い頃に神殿に籠って以来、長年忘れかけていた本物の『外の風景』だった。
しかし、その風景は――彼女の記憶の底に僅かに残る、陽だまりのような美しい世界では決してなかった。
最高神イジェプタの慈愛に満ち、希望に輝いていたはずの聖都は今、帝国の無慈悲な業火に包まれ、地獄の血の池のように真っ赤に燃え盛っている。
「ああ……私たちの、街が……世界が……」
ひとしきり絶望に咽び泣いた後、彼女の目から涙が枯れ果てた。
そして、その奥底に代わりに宿ったのは――。
今まで神への清らかな祈りしか知らなかった無垢な少女の瞳には、決して灯るはずのなかった、ドス黒く激しい『憎悪の炎』だった。
「許さない……。私たちの国を奪い、家を焼き、私たちの祈りまで泥靴で踏みにじるなんて……。ローデンブルク帝国……絶対に、絶対に許さない……!」
背中越しにビリビリと伝わってくる、彼女の小さな身体の激しい震え。
それは恐怖ではなく、帝国への苛烈な復讐の誓いだった。
『……レオンハルト。あなたは神殿を派手にぶち壊して、民の心を折ったつもりなのでしょう。合理主義者のあなたらしい最悪の最善手ね……。でも、それは逆よ。あなたは今、この世で一番怒らせてはいけない「純粋すぎる信仰」を、一番おぞましい「復讐鬼」へと変えてしまったのよ……』
『私』の低く冷え切った声が、僕の脳内を駆け巡る。
((うん……。もう、一歩だって引き下がらない。僕たちの、そしてこの子たちのすべてを奪おうとする帝国に――僕たちの本当の、地獄の底からの怒りの歌を叩きつけてやるんだ……!))
赤黒く燃え盛る聖都の瓦礫のただ中、僕は背中の彼女を落とさないよう強く抱きかかえ、血の滲むような決意をその胸に深く刻み込んだ。
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