崩れゆく聖域
ローデンブルク帝国の侵攻は、あまりにも迅速で、そして悪魔的なまでに合理的だった。
帝国の第三皇子レオンハルトは、カイロネイア神王国の最大の強みであり、同時に最大の弱点でもある『宗教への絶対的依存』を、冷徹なまでに正確に見抜いていたのだ。
「民の心を束ねる神を殺せ。さすれば、あの脆弱な国家は自ずと内側から瓦解する」
帝国の容赦ない破城砲が一斉に火を噴き、あろうことか、神王国の民が信仰のすべてを捧げる絶対の聖地――大神殿への直接砲撃が開始された。
――ドガァァァン!!!
鼓膜を破るような大爆音と地鳴り。
白亜の美しい尖塔が、そして僕たちがつい先日、暴動を鎮めて奇跡を起こしたあの美しい回廊が、猛煙を上げて無残に崩れ落ちていく。
「嘘……、神殿が……」
「私たちの聖地が落ちるというのか……!?」
絶望の悲鳴に包まれる聖都の街並み。
だが、崩壊していく瓦礫の山を目にした僕の脳裏に、真っ先に浮かんだのは、本番直前にあの祈祷の間で、僕の衣装の裾を握りしめながら一世一代の告白をしてくれた、あの優しい巫女の少女の泣き顔だった。
((あの子が……あの子がまだ、あの崩落する神殿の中に取り残されているかもしれないんだ!!))
胸を突き刺すような焦燥感に、僕は周囲の静止も聞かず走り出そうとする。
『カース、危険よ!今の神殿はいつ完全に全壊してもおかしくないわ!……でも、そうね。あの子をここで見殺しにしたら、「私たち」は一生後悔する!行きなさいカース、私もナビゲートするわ!!』
脳内の『私』の激しい鼓舞を受け、僕は純白の法衣を翻し、煙と炎が渦巻く崩壊寸前の大神殿へと文字通り飛び込んでいった。
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