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【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】  作者: nhhtn
動乱編

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叶わぬ告白


着替えが終わり、僕が暴徒の待つ決戦のステージへと向かおうとした、その時。

カサリ、と背後から微かな衣擦れの音がして、彼女が僕の衣装の裾をぎゅっと握りしめた。

驚いて振り返ると、彼女の大きな瞳には、今にも溢れ出しそうな大粒の涙がたまっていた。

神に身を捧げた巫女は一生、異性と愛を交わすことも、誰かの妻になることも許されない。

そして僕もまた、種を残すことのできない、男でも女でもないカストラートという歪な身体だ。

お互いに、人間としてのまともな『恋愛』も『結婚』も、最初から世界の残酷なルールによって奪い去られている。

それでも……否、だからこそ。

同じ深い闇と孤独を共有してしまった『カース・ディ・トラッド』という存在に、彼女は生涯、最初で最後となる、一筋の救いの光を見てしまったのかもしれなかった。


「っ……أحبك」


それは、カイロネイアの神聖な言葉で放たれた、自らの魂を絞り出すような、切実で狂おしい愛の響き。

決して叶わぬ悲恋だと知りながら。

もし上層部に見つかれば、神殿からどんな過酷な罰を受けるかも分からない――まさに、命がけで放たれた一世一代の告白だった。


「———!!アイシャ……。僕は——」


彼女は僕が言葉を返す前に、そっと手を離した。

そして溢れる涙をごしごしと袖で拭うと、泣き顔のまま、無理に作った満面のひまわりのような笑顔で僕の背中を優しく押し出した。


「……歌、頑張ってください。私の、私たちの、新しいイジェプタ様」


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