神殿の楽屋
聖都の大神殿、その最奥に位置する、ひんやりとした空気が満ちる厳かな祈祷の間。
一歩外に出れば、怒り狂う数万の民衆が放つ怒号と地鳴りのような地響きが、壁や床を震わせて伝わってくる。
そんな圧倒的な殺気の中、僕は静かにステージへの準備を整えていた。
「カース殿、これが我が国の神聖古語における、最高神イジェプタを讃える正しい母音の発音です。歌詞のイントネーションも、一言一句間違えぬよう……」
「はい、問題ありません。完璧に頭に入りました」
神王国の神官たちと発音の最終確認を交わしながら、僕は彼らが用意した最高位の儀礼用衣装へと着替える。
それは、最高神イジェプタが地上に降臨した際の姿を模したとされる装束。
極上の純白のシルクに、気の遠くなるような細緻さで金の刺繍が施された、まさにこの世のものとは思えないほど美しく神聖な衣だった。
「――お着替えを、お手伝い……いたします。異国の、天使様」
そう言って、緊張しながらも僕の背中の複雑な編み込みリボンや神聖な装飾品を手際よく整えてくれたのは、この大神殿に仕える一人の若い巫女の少女だった。
僕のために異国の言葉を一生懸命に勉強してくれたのだろう。
彼女は少し拙い口調ながらも、僕を安心させるように、ひだまりのような優しい微笑みを向けてくれた。
『去勢歌姫』あるいは『人工天使』として、芸術のために人間としての当たり前の生き方を捨てさせられた僕。
そして、幼い頃から神に身を捧げ、俗世から隔離されて生きてきた巫女の彼女。
どこか似たような『世俗から切り離された孤独な空気』を纏う僕たちは、衣装を整えるほんの短い時間の間で、言葉の壁を越えて自然と心が通じ合い、すぐに小さな友人となった。
――けれど。
その直後、彼女が何気なく、そして切なそうに紡いだある言葉が、僕の胸を激しく締め付けることになる。
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