謁見:天使を熱望する者
『アルゴス=カスティエラ連合国』――。
現アルゴス国王とカスティエラ王女の政略結婚により成立した、大陸南方の大国。
政略結婚には珍しく、今なお相思相愛で仲睦まじいことで知られる国王夫妻の宮殿は――。
先日までいたブリタニアの質実剛健で、ともすれば陰気にもみえる雰囲気とは打って変わり、こちらは眩いばかりの純金と鮮やかな原色の装飾が散りばめられた、目も眩むほど華やかで情熱的な大宮殿だった。
格式高い巨大な大理石の扉が開き、僕たちが謁見の間へと一歩足を踏み入れる。
その瞬間、そこに漂っていたのは――押し潰されそうな政治的緊張感。
……などでは、決してなかった。
「おお……!眩い……!本当に、あのロムルス教会の至宝、『権天使』のカース様が我が国に……!?」
「なんという清らかさ、そして胸を締め付けるほどに美しいお姿かしら……!爆破テロで崩壊した『SMPC音楽院』から、奇跡的に生き延びたと噂の、あの音楽神の愛し子に間違いないわ……っ!」
玉座に座る国王陛下、そしてその隣で高級な扇子をバサバサと激しく揺らす妃殿下が、揃って身を乗り出し、文字通り『狂喜乱舞』して色めき立っていたのだ。
『ちょっとカース、これ完全に勝ち戦だわ!アルゴスはね、大陸一の「ロムルス教崇拝国」かつ「カストラートオタクの国」なのよ!「SMPC」の絶対的トップスターが亡命してきたなんて、彼らからしたら、現代日本で言うところの「海外の超大物ハリウッドセレブや伝説の歌姫が、なぜか我が国へ独占移籍しに来てくれた」レベルの国家的大事件なのよ!』
脳内の『私』が勝ち誇ったようにガッツポーズを決める。
((え、ええ……。もの凄く熱烈な視線を感じるんだけど……。あんな状態で、堅苦しい政治や同盟の話をちゃんと聞いてくれるのかな……?))
妃殿下に至っては、まだ僕が何も歌っていないというのに、存在の尊さに感動のあまりシルクのハンカチで目元を拭って涙している始末だ。
音楽院で磨き上げた僕の『天使のブランド力』は、情熱の国をも一瞬にして魅了し、熱狂の渦に巻き込んでいた。
((――ジュリアス、そしてレオン。
君たちが冷徹な武力と姑息な陰謀で世界を支配しようとするなら、僕は『芸術への熱狂』と『神への信仰』で世界を動かしてみせる!))
かつての敵国の宮殿のど真ん中、押し寄せる圧倒的な『推し活』の熱気を受けながら、僕は不敵な笑みをポーカーフェイスの裏に隠し、完璧なロビー活動を開始するのだった。
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