6話 問答無用で送り出される
魔王城は3ヶ月前まで壊れていたとは思えないぐらい、綺麗に修復されていた。
黒い石造りの外壁、見るからに危険そうな紫色の雑草。
さらにご丁寧に、入り口まで石畳が敷きつめられている。
明らかに今回追加されたものだ。
(敵対してないから、歓迎モードに切り替わったのか?)
1人、モヤモヤしながら進む。
喜んで良いことなのだろうが、素直に喜べない。
また敵対してしまった時はどうするのだろう。
デュークさんは迷路のように入り組んだ道を迷わず先導してゆく。
そのままあっという間に王座の間に辿り着いてしまった。
「待ちわびたぞ」
入った瞬間に響く少し低い子供の声。
言ったのは当然、王座で堂々と頬杖をついている子供姿の魔王だ。
「あんたが呼んだんでしょ!」
「ああ、そうだ。頼める相手がお前達ぐらいしか居ないからな」
フローの鋭い声にも魔王は落ち着き払って答えている。
(いつも思うけど、魔王相手にこんな態度とれるフローもスゲェよ……)
俺だったら間違いなくできない。やった瞬間ボコられる。
すると、ザルドが眉を寄せながら言う。
「いきなり口を挟んで悪いが、俺達に頼んで良いのか?
プライド高そうなのに」
魔王は少しだけ赤い目を鋭くすると、口を開いた。
「プライドはある。が、それを捨てなければならないほど急を要するのだ」
「あの、カルムさんから窺ったんですけど、お友達を探してほしいんですよね?」
アリーシャが遠慮がちに尋ねると、魔王は目元を緩めて頷く。
「そうだ。我の推測ではあるが、別の大陸に居るだろう」
「具体的にわからないわけ?」
フローが口を尖らせると、魔王は小さくため息を吐いた。
「ここから遥か北にある「魔大陸」。幻の大陸とも言われておるがな」
「幻の大陸……?」
4人で一斉に首を傾げた。
別の大陸があると聞いただけでもピンとこなかったのに、幻の大陸とか言われて理解できるはずがない。
魔王はそのまま話を続ける。
「この城と「魔大陸」はリンクしておってな。現れれば感知できるようになっている。そして、数日前にようやく感知したのだ。
「魔大陸」が現れた時は必ずその土地で事象が起こっておる」
「じゃあ、魔王さんはそこに——」
言いかけて口をつぐんだ。
(テナシテさんの名前出して良いのか?あまり知られたくなさそうだしな……)
今までザルド達にも名前を伝えていない。
迷っていると、察した魔王が会話を繋いでくれた。
「ああ、友人が居るはずだ。
だが、最悪ソイツが事象を引き起こしている」
(濁した……。名前を出さなくて正解だったな)
「何それ無茶振りじゃない……」
「でも、魔王さんの大事なお友達なんですよね……?」
アリーシャの声が震えている。
だけど恐怖からではなく、魔王が子供姿なので同情心が生まれたようだ。
「ああ。
我が同行できれば良いのだが、魔王が上陸すれば問答無用で大陸は崩壊を始める」
予想外の言葉に俺達は絶句した。と同時に、魔王が頑なに行けないと言っていた理由にも納得する。
静まり返った場に今まで黙っていたデュークさんが割り込んでくる。
「そ。だからマーさんはアンタ達に頼んだワケ。
そうそう、俺は同行するからな〜」
「ハァッ!?」
素早くフローが嫌悪感を示した。アリーシャも迷惑そうな顔でフローに身を寄せる。ザルドは呆れたように顔を引きつらせていた。
しかしデュークさんは全く気にしてない様子で話を続ける。
「そう嫌がんなよ〜。俺も「魔大陸」行くのは初めてだけど……居るのは魔族だけらしいぜ?」
「へ……?」
次々と出てくる新情報に頭の整理が追いつかない。
だけど俺は1つのことでいっぱいいっぱいだった。
(だよな!?やっぱりデュークさんついてくるよな!?)
血の気が引いてきた。心強いが何をされるかわからない。また眠れなくなる日が続くの覚悟しておいた方が良い気がする。
すると魔王が補足した。
「「魔大陸」には魔素が充満していてな。
自我を保てない魔族もおるだろうな」
「アンタ本当についてきて大丈夫なわけ!?」
すかさずフローがデュークさんを指差す。
デュークさんはニヤニヤしながら答えた。
「お?俺のこと心配してくれてるの〜?」
「そんなわけないじゃない!アンタが「魔大陸」についた瞬間、自我を失ってアタシ達に襲いかからないかの心配よ!」
「自我は精神が弱いと失いやすい。デュークはその点心配無用だ。
我が保証する」
魔王に冷静に言われて、フローは渋々腕を下げた。
不機嫌な顔のまま口を開く。
「で、どうやってその「魔大陸」ってのに行くわけ?
まさか船使えとか言うんじゃないでしょうね?」
「そこまで古代的ではない。
先ほどリンクしていると言ったな?専用の部屋に転移陣が現れているから、そこから向かえ」
そう言うと魔王は立ち上がって移動を始めた。
俺達も戸惑いながらついて行く。
魔王は同室の隅にあるドアの前で立ち止まった。
そこには赤く見慣れない複雑な文様が刻まれていて普通の部屋ではないことが窺える。
「ここがその部屋ですか?」
おそるおそる尋ねると魔王が背を向けたまま頷く。
そして慎重にドアを開けた。
中は5人がギュウギュウ詰めでどうにか入れるほどの広さだった。
中央に人1人が立てるほどの小さな土台があり、そこに紫色の魔法陣が柱状に展開している。
魔王が道を開けて、フローが訝しげに近づいた。
「なんか嫌な感じの魔法陣ね」
「そうですね……。少し苦手なオーラです」
アリーシャも同じように近づいて賛同する。
(やっぱりこの2人は魔法を扱うからか、空気の流れに敏感だよな。
俺が鈍感なだけかもしれないけど)
感心していると、ふとデュークさんが俺達の背後に立った。
デュークさんのゴツい手のひらが俺の背中に押し当てられる。
(へ?)
「よーしっ!じゃあアンタら先行きな!!」
言い終わらない内にデュークさんから背中を押された。
俺、ザルド、アリーシャ、フローの順に雪崩方式に倒れ、俺達は強制的に魔法陣に飛び込む形になった。
「ええええぇっ!?」
「ヒハハッ!俺もすぐ行くから待っててくれよ〜!」
デュークさんの陽気な声が白くなってゆく視界の中に響いた。




