さよならとはじめまして
ルイとナナコは冒険者ギルドに街で起こった出来事について色々と報告した。
暴れていたロッツ・バルザーニの配下となった組織、アネモヴロホは魔族が中心となって作られた組織であったこと、その魔族が魔王軍の元幹部であったこと。
この騒動にはオルゼスの原住民が関わっていたこと。
そして生捕りにしたメンバーからロッツ・バルザーニの情報を聞き出そうとしたが、大した情報は得られなかったこと。
これらの話を聞き、オルゼスの冒険者ギルドのマスターはそうか、と唸る様に言った。
「報告ご苦労、君たちもよく活躍してくれたと聞いている」
ルイとナナコは互いに十万リロを報酬として受け取った。
ルイはジェイド撃退の分が大きく、ナナコはその部下である魔族を三人討伐したことによる報酬だった。
「いえ、私たちは出来ることをしたまでですから……それにしても、私まで報酬を頂いていいのですか? 冒険者ではないのですが」
ナナコとしては報酬を貰えるのは嬉しいが、聖浄機関所属であるため少し気が引けるものがあった。
「構わない、この街を守ってくれたんだからな。君たちがいなかったら更に被害は大きかったかもしれない。もし街が完全に崩壊してしまったら私は自害して責任を取らねばならないところだった」
ギルドマスターもこの街を拠点にして活動している以上、街の人々を守る義務と責任がある。
そして彼は命を賭してでもそれを果たす覚悟があった。
それを感じたルイはこういう人間もいるのだなと思った。
或いはこういう人間は意外と何処にでもいるのかも知れないとも思う。
命を賭して責務を全うしようとする者。
死んだパウエルはどういう思いで武器を取ったのだろうか。
彼も奪われた故郷に対してそういう気持ちを持っていたのだろうか。
今になれば分からないことだが結果的に彼は死に、悪人として葬られてしまうことは確かだ。
パウエルの行動を誤ちだと決めつけてしまうのは簡単だが、ギルドマスターの思いとパウエルの思いは本質的には相反するものではないのかも知れないとルイは思った。
奪われた土地に対する思い、守るべき街に対する思い。
彼らのその気持ちを自らに重ね合わせ、ルイは焼け落ちた魔王城の光景を思い出す。
守れなかったもの、もう二度と戻って来ることはないあの幸せな日々のことを。
ギルドを出て、ルイとナナコはここで別れることになった。
「ありがとう、色々と勉強になったわ」
「こちらこそ、人里に疎い僕に色々教えてくれてありがとう」
短い間ではあったが、お互いに色々といい経験が出来たと思う貴重な出会いだった。
「ねぇ、一応聞くんだけどさ。貴方、私たちの仲間にならない? 聖浄機関っていう組織にいるだけど、腕の良い人を募集してるの」
魔族殺しの聖浄機関はルイにとって天敵とも言える組織だ。
その身の半分は魔族の血が流れているルイはこんな可笑しなこともあるのだなと内心笑いを噛み殺した。
「悪いが断っておくよ。僕にも旅の目的があるからね」
「そう、フィレンツェルを目指してるんだったわね。きっとここよりも暖かいわよ。それじゃあ、さよなら」
そう言ってナナコはあっさりと別れて行った。
だが、近いうちにまた会うことになるだろうという予感はお互いにあった。
ルイが宿に戻るとセリカが丁度お茶を淹れているところだった。
「おかえりなさいませ、御坊ちゃま。街はどうでしたか?」
外で何が起こっていたか知っている癖にわざとらしくセリカはそう聞いてきた。
「悪くはなかったよ、いい出会いもあったし。冒険者にもなれたからね」
「それは良かったですね。ところでジェイド殿と戦ってみてどうでしたか?」
「知ってたか、どうせ使い魔を通して見てたんだろう。まぁ強かったよ。結構危なかったと思う」
それは冗談でも誇張でもなく、本当にそう思っていることだった。
ルイは旅に出てから全ての戦いにおいて力を制限して戦っていた。
その目的はアルマ・テールムの発動と進化のためだったが、それ以外にも理由はあった。
それはギリギリの戦いをするという経験を積むこと。
確かに戦闘態になれば先日戦ったコンジュリィやジェイドなどは簡単に叩き潰せてしまうだろう。
だがそれでは意味がなかった。
本当に強い敵、自分よりも優れた敵と相対したとき、絶対に勝つことは出来ないからだ。
そして簡単に勝って仕舞えば戦いの中で得られるであろう本当に大事なことが分からないからだ。
本当に大事なことはただ経験をするのではなく、経験を通して何を得るか、何を感じ取るかが大事なのだ。
その重要性をルイは理解していた。
「そうですか、流石は魔王様に選抜された魔族なだけありましたね」
セリカはセリカでこの旅を通じてルイにもっと成長して欲しいと思っている。
自分たちを導く真の魔王としてこれからも様々な経験を積んで貰わなければならなかった。
翌日、暫くオルゼスに滞在することにしたルイは冒険者ギルドに顔を出していた。
折角冒険者になったのだから適当な依頼を受けてみたかったのだ。
早速ルイはセリカを冒険者に登録させることにした。
例の測定装置は隠と陽の魔力を見分ける機能がないとルイは見抜いていたのでセリカが魔族であるということはバレない自信があった。
案の定すんなり登録を済ませたルイは依頼書が貼ってある掲示板に向かったが、そのときやけに自分たちが注目されていることに気がついた。
「セリカ、お前が変な格好をしているから妙に目立ってるんじゃないのか?」
ルイはセリカがギルド内にいるときもメイド服を着ているのでそれが目を引いているのではないかと思った。
「これは正装です、決して変な格好ではありません。それと、目立っているのは御坊ちゃまの方では?」
聴き耳を立ててみると、確かにヒソヒソと話している内容はルイについでのものだった。
「おい、あれが噂のルーキーだろ。確か血刃王子」
「元魔王軍幹部を撃退したって噂の」
「メイド連れてんじゃん。亡国の王子だって噂はやっぱ本当なのか」
王子、という単語にルイは思わず頬を引き攣らせた。
「ナナコの奴め、妙な噂を流したな」
ルイの知らない間にナナコはルイが亡国の王子であるという噂をギルド内に流していたのだ。
「良いではないですか。いい評判というのは流れるに越したことはないはずです。それに御坊ちゃまの戦いを多くの住民が見ていましたからね。ある程度強さがバレてしまうのは仕方がないでしょう」
ルイと戦う前のジェイドが惨殺したという冒険者パーティーがA級であったことから既にそれを凌駕する実力者であるとルイは見られており、初めは最低ランクだった冒険者ランクは知らぬ間にBランクへと上がっていた。
ランクは戦闘能力のみでなく、採取や探索の練度、依頼の達成数や達成率などの総合的な判断で決められるため、今回戦闘力のみを示したルイがBランクへ上げられたのはかなり異例なことであった。
「で、だ。ランクが上がったのはいいが問題があってな。実はこのB級は仮ということになっているのだ。僕はまだ一度もギルドからの依頼を受けてはいないから先ずは下級の討伐依頼を幾つかこなしてから本格的に上げて貰えるらしいのだ」
ということでルイは依頼が貼ってある掲示板を見ているのだが、最下級であるDランクの依頼は殆どが採取であり、面倒だと思うものばかりであった。
「御坊ちゃま、これとか良いのではないですか? フラフラ草の採取ですよ」
「何だその草は……見ろ、こんなのは報酬が少ないだろう。二千リロでは日銭にもならんぞ」
主だった討伐依頼はCランクのものばかりであり、Dランクの討伐依頼もあるにはあるが、弱小魔獣の討伐ばかりでこれも大した金額ではなかった。
そこでルイは一つだけワンランク上の依頼を受ける方法があることを思い出した。
「Cランクの冒険者を仲間に入れよう。そうすれば僕たちでもCランクの依頼を受けることが出来る」
「仲間ですか、しかし私たちの秘密がバレてしまう可能性もありますよ」
「そのときは上手くやるさ」
ルイたちは早速仲間探しを始めた。
Cランク以上の冒険者はその辺にゴロゴロいるので声を掛けるのは誰でもいい様な気もするが、やはり仲間にするならそれなりの人間の方がいいとルイは考えていた。
あいつもダメ、こいつもダメとギルド内の冒険者を品定めしていると、一際異彩を放つ冒険者を一人見つけた。
椅子に座るその人物は金髪の少女であり、傍には布で厳重に巻いてある巨大な剣が置いてあった。
「セリカ、あれを見てみろ」
「はい、魔の気配を感じますね」
少女の大剣からは何か強力な邪気の様なものが発せられており、ルイは何か訳アリだなと思い声を掛けてみることにした。
「そこの君、ちょっといいかな」
「え、あ、はい……て、噂の血刃王子!! あ、あーしに何か用でしょうか」
突然ルイに話をかけられて狼狽えた少女は椅子から飛び上がった。
「少し聞きたいんだが、君のランクは幾つかな」
「えっと、あーしはCランクだけど」
「よし、もし良ければ僕らとパーティーを組んで組んでくれないか。君の力を借りたいんだ」
「ええっ!」
ルイの申し出に少女は大袈裟に驚く。
リアクションの大きい奴だなと思いつつ、ルイは少女の大剣に指を指した。
「この剣は魔剣の類なのかな? これを使い熟せる実力があるならかなり強いと思うのだが」
「ああ、この剣ね。やっぱ血刃王子くらいの実力者だったらこの剣が何なのか分かるのかぁ」
少女は背丈ほどもある大剣を軽く持ち上げて背中に担いだ。
「いいよ、君の仲間になってあげる。あーしはエリーゼ。名前、教えてよ」
「僕はルイ・フォルティシモ、こっちはセリカだ」
「御坊ちゃまの専属メイド、セリカと申します」
「め、メイド……変わった趣味してるんだね。まぁいいや、宜しくね。早速依頼を受けに行こうか」
エリーゼは何か勘違いしている様子だったが、三人はパーティーを組み依頼を受けに行くのだった。




