怒れる復讐者
ルイたちがその現場についてみると複数人の武装した者たちが暴れ回っていた。
既に争った後の様で血を流して倒れている衛兵や冒険者の姿がある。
彼らはかなりの手練れの様であり、応戦している者たちもかなり苦戦していた。
「僕たちも助太刀するぞ」
「いや、私はちょっと……」
「市民を助けるのは冒険者の義務らしいからな。それと彼らを捕らえたら報酬が貰えるのだろう」
「私は冒険者じゃ……はぁ、分かったわよ。報酬は山分けなんだからね」
ナナコは刀を抜き、ルイはメティス・エペを創り出した。
「アルマ・テールムか、流石ね」
「ナナコは使えないのか?」
「私のは攻撃向けじゃないのよ」
「そうか、行くぞ」
「指示しないでよね。好きにやらせてもらうから」
ルイとナナコは同時に飛び出してならず者たちに向かって行った。
「何だ、今度はガキか。オラオラやっちまうぞ」
「俺たちゃロッツ・バルザーニ配下のアネモヴロホだぞ! 歯向かう奴らは皆殺しだ」
どうやら彼らは先程話題に上がったロッツ・バルザーニの配下の犯罪組織らしかった。
こいつは都合が良いとルイは口角を上げる。
「捕まえたついでにバルザーニの居場所を吐かせてやろう」
「抜かせ餓鬼が!」
ルイの発言を聞いていたゴロツキの一人がルイに躍りかかってきた。
ゴロツキは雄叫びを上げて手斧を勢いよく振り下ろすも、ルイの流麗な動きによって受け流され武器を奪われてしまった。
「何だぁ、ウッ」
その後ルイはごろつきの腹に左拳を叩き込み、その一撃で昏倒させた。
「キャペレ・カテイナ」
ルイは呪文を唱えて倒れたごろつきを捕縛した。
このとき、ルイは面白いことを思いついた。
「ナナコ、僕は少しの間術式を練るから三十秒ほど時間を稼いでくれ」
「三十秒? その間に終わらせても構わないかしら」
「ああ、それでも問題はない」
「じゃあ遠慮なくやるわよ」
抜刀したナナコは地面を強く蹴った瞬間、その場から消えたと錯覚するほどの加速で動き始めた。
そしてすれ違い様に五人のゴロツキを一瞬の内に仕留めていた。
「安心して、峰打ちだから」
涼しげな表情で倒れたゴロツキたちにそう告げるナナコ。
そして残ったゴロツキたちもあっさりと瞬時に倒されてしまった。
「十秒ほどで終わったけど、どうするつもりかしら」
「流石だな。後は僕に任せてくれ……キャペレ・カテイナ」
ルイは呪文を唱えると幾つもの鎖を地面から創り出し、それらは倒れた全てのゴロツキを捕縛した。
「へぇ、中々良い魔法の使い方ね。近接も魔法も得意ってことなのかしら」
「どちらも嗜む程度さ。僕は王子だからな」
「その設定ってまだ生きてるのね」
ナナコは苦笑いして肩を竦めた。
そんなとき、二人に近づいてくる者がいた。
「なぁ、アンタたち冒険者なんだろ」
戦いを終え、気が緩んだところに街の住人の男が声をかけてきたのだ。
「そうだが」
「どうやら街中でこいつらの仲間が暴れ回ってるみたいなんだ。倒して回ってくれるよな」
どうやら事態は思ったよりも深刻な状況に陥っているらしい。
ロッツ・バルザーニの指示によるものなのか、或いはアネモヴロホとかいう配下の組織が独断で動いているのか。
ともかくこのままでは街がゴロツキに占領されてしまう可能性があるのは明らかだったので、ルイたちはゴロツキを倒しに向かうのだった。
「流石にこれを放っておく訳にはいかないわね。このままだと先生の看病もままならないし……」
「だな、僕としてもこんな素晴らしい街が壊されるのは許し難いものがある」
ルイとナナコは互いに視線を交わすとそれぞれ異なる方向へ駆け出して行った。
ルイは市街の中央へ、ナナコはオルバが療養している病院がある方へ向かって行った。
ルイが向かった市街地の中心でもゴロツキたちは暴れ回っていた。
彼らは主に建造物を破壊して回っており、中には魔法を使っている者もいた。
そんな中、ルイは見覚えのある人物を発見した。
「あれはパウエルか。何故こんなことをしている」
確かにパウエルは自分たちの土地を奪った者たちを恨んでいる様子だったが、土地を奪い返すことを諦めていたはずだった。
「おい、これ以上はよせ。こんなことをしても無駄だぞ」
「アンタ、あのとき俺を助けてくれたルイっていう旅人……クソっ、アンタにゃ見られたくなかったな」
パウエルはバツが悪そうな表情でルイと向き合った。
「アンタも知ってるだろ。俺はこの街に恨みがあるんだ。この仲間たちもな。アネモヴロホはこの街を奪うことに協力したら元の生活をさせてやると言ってくれた。だから俺らはやることにしたのさ」
パウエルはその瞳に暗く澱んだ復讐の炎を宿していた。
「騙されてるぞ、お前は」
「そうかも知れねぇな。何せ相手は悪名高きロッツ・バルザーニ配下だ。けどな、俺たちは悪魔に魂を売ってでもこの土地を、取り返したかったのさ」
パウエルは大槌を構えた。
それに倣って彼の仲間たちも銘々に武器を構え始める。
「助けてもらったことには感謝してるが、死んでくれ」
パウエルは悲鳴のような雄叫びを上げながらルイに向かってきた。
「キャペレ・カテイナ」
ルイはすかさず複数の鎖を同時に生成して一瞬の内にパウエル以外のゴロツキを捕縛した。
突然仲間を行動不能にさせられたパウエルは動きを止めて唖然としている。
「降参するなら逃してやる。助けた命を奪いたくないからな」
この忠告はルイたちに馬を安く譲ってくれたパウエルに対する情けだった。
ルイとパウエルの力の差は歴然であり、この時点でパウエルに万に一つの勝ち目も存在しなかった。
だがそれでもパウエルはその瞳に闘志を宿し続けていた。
「強いアンタには分からないだろう。奪われる者の屈辱が、虐げられる者の苦しみが、アンタには分からないだろう。俺たちは奪われ続けていた……今度は俺たちが奪う番なんだよ!」
パウエルは再びルイに勢いよく向かってきた。
「諦めろと言っても無駄なんだろうな」
振り下ろしてきたパウエルの大槌をルイは片手であっさりと受け止めてしまった。
「そんな……有り得ねぇだろ」
攻撃を当てれさえすれば、そんなパウエルの希望はあっさりと打ち砕かれた。
「もう一度だけ言うぞ、逃げれば追わない。これ以上続けると言うなら、殺す」
ルイから滲み出てくる殺気を感じたパウエルは、その時悍ましい姿の怪物を幻視した。
底無しの恐怖に包まれたパウエルは悲鳴を上げ、錯乱状態となって逃げ出した。
逃げ出したかとルイが安堵したとき、過去に感じたことのある気配を感じた。
その瞬間、逃げ出したパウエルは何かに掴まれた様に動きを止めた。
必死にもがくパウエルだったが、その抵抗も虚しく何かの力によって首を折られてしまった。
突如起こった出来事にルイは驚愕して目を剥く。
そしてパウエルの首をへし折った者がゆらりと空間を歪ませる様にして姿を現した。
「逃げちまうなんて根性ねぇじゃんかよオイ。故郷を取り返したかったんじゃなかったのかぁ」
その男はルイにとって見覚えのあるある者だった。
独特な金色のモヒカン頭に加えて三白眼を光らせた凶相の持ち主。
「お前、ジェイドか」
「ああん、何だテメェは……んん? そう言えばどっかで見たことある様な顔だなぁ」
ルイがジェイドと呼んだ男はルイをまじまじと観察する。
「あの女によく似ている。魔王様が攫ってきたあの女にだ。つーことはテメェ……ルイ様か?」
ジェイドはかつて魔王に仕えていた魔族の一人であり、大部隊を率いる幹部の一人だった。
ルイとは幾度か顔を合わせたこともある。
魔王軍の生き残りの一人と偶然出会ったルイは、強張っていた表情を緩めた。
「やはりジェイドか。久しぶりだな、生きていたんだな」
「ええ、まぁ何とかね。俺もみんな死んじまったと思ってましたよ」
ニヤリ、と凶相を歪ませ笑みを作ったジェイドはパウエルの死体を掴んだままルイに近づいてきた。
「随分と大きくなって、最初は誰だか分かりませんでしたよ」
「無理もない、最後に顔を合わせたのは十年も前の話だからな。ところでお前は何をやってるんだ」
「アネモヴロホっつー組織の頭をやってるんでさぁ。ロッツ・バルザーニとかいう人間の配下になるのは業腹でしたが……食うに困らねぇ」
ジェイドは掴んだパウエルの頭部に思いっきりかじりついた。
「殺しも、食事もやりたい放題だ。混じり物のルイ様には分からんだろうが俺たち魔族は魔力を持つ物を食う事で強くなれる」
溢れ出る血を飲み干し、腹部に喰らいつき臓物を啜り始めた。
「特に人間は最高だ。魔獣の比じゃねぇくらいの魔力を保有してやがる。なぁルイ様、半分人間のアンタはどんな味がするんだろうな!」
「!!」
ジェイドはまるで消滅したかの様に姿を消した。
ルイは知っている、ナナコの様な超スピードなどではなく本当に姿を消しているのだと。
「闘神戦技、シャトル!」
ルイは咄嗟にその場から高速で移動した。
ナナコほどの速度はないが、ルイも同じ移動法を会得している。
「そりゃ甘いってもんだろ」
だがその速度にジェイドは付いてきた。
不可視の一撃がルイに襲いかかる。
咄嗟に構えたメティス・エペに衝撃が走る。
防御出来たのは全くの偶然だった。声のした方向から位置と距離を予測したのが上手くハマっただけだった。
「チッ、勘が良いのか運が良いのか……」
ジェイドが姿を現した。
ルイは先ほどの攻防である程度ジェイドの能力について推察出来ていた。
魔族の中には生まれつき固有の特殊能力を持つ者がいる。
ジェイドもその内の一人なのだろう。
そして厳しい修練と魔法の習熟によって能力はより戦闘向けへと洗練されていく。
ジェイドの透明化能力は正しくその努力の結晶と言えるだろう。
「面白い固有能力だな、本来ならば暗殺や潜入に特化したものを戦闘用に仕上げてある。魔王軍を上り詰めるために工夫を重ねたんだな」
透明化の固有能力にありがちな弱点として、動けば解除されてしまうというのがある。
これは強さこそが史上とされる魔族において致命的な弱点であり、折角の固有能力も活かせなければただの無用なものに過ぎないのだった。
「才能に溢れたルイ様には分からんだろうなぁ。この血の滲むような努力は。俺は自らの能力を磨き上げ、魔王様にも迫る力を手に入れた。そして人間共を喰らって本物の魔王になり魔族の頂点に君臨する!」
「この僕に向かってその様な大口を叩くとはな……良いだろう。見せてみろ、お前の強さを」
偶然にも再会してしまった元魔王軍の幹部、ジェイドと魔族の王子ルイ・フォルティシモ。
この二人の戦いの幕が切って落とされた。




