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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
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【番外編12】バルーガの場合(1)

【設定】

・エリカとオリキス、二人がバーカーウェンに帰ってから三年後、天牢の雪国シュノーブに居るバルーガは……。

・ややざっくりした文章。



「副官補佐ですか」


 兵舎内にある団長専用の執務室。呼ばれたバルーガは椅子に座ってるコルヘニクスから渡された書面を見て、あまり乗り気でない顔をする。それは喜んでくれると思った側にしてみたら、目を丸くする反応でしかなかった。


「あれから三年。おまえが目の敵にしていたクリストュル様は民間人になり、サラ様は王籍を捨てて東国に使節として赴いていらっしゃる。不満か?」


 バルーガは、いえ、そういうことではなく、と言いたい顔をした。

 だったらほかに何があるのだ?という空気が流れるなか、彼は申し訳なさそうな表情をし、両手で辞令を返した。


「俺は、いずれ故郷に帰る身。失礼ながら、見習い騎士の指導係りに任命してくださるほうが、適切なご判断だと思えるのですが?」


「適切なご判断だが?」


 あっけらかんとした態度で返されたバルーガは、喉奥から、う〜〜んと唸り声を出しそうな苦々しい顔をする。


「大臣たちはおまえの働きを評価し、労った。機会は、ずっとは無いぞ?」


 如何に名誉なことであっても、バルーガの気はすぐには変わらなかった。



「考えさせてください」



*.°



 その日の夜、バルーガは土産を持参してティックの家を訪れた。

 テーブルの上に置かれた今夜のメニューは……。



・厚みが親指の長さほどあるステーキ

・茹でて潰した芋に、乳脂肪分が多い生乳を適量混ぜた、付け添えのポテッシュ

・子どもでも食べやすい、苦くない葉野菜メロントフリルス

・バルーガが兵舎内にある喫茶店の菓子職人に頼んで作って貰った、ひと口大の甘いキッシュ



 夕食時、ティックは、ナイフとフォークを使って肉を切りながら言う。


「良い話じゃないか」


「有難いっちゃ有難いんすけど。

 先輩は工房主を任されたとき、うきうきしてましたよね。オレはどうも浮かれた気分になれないんすよ」


「俺は、できることが増えるのは楽しいって思ったな。使い放題、申請し放題。最高さ」


 魔術技師(ソーサリークラフター)は素材の調達、新しい研究に時間を費やすなど、しようと思えばすることは山のようにある。

 対する一級騎士は()甲斐があっても、回ってくる任務の内容がその都度違うだけで、この先もずっと何も変わらない。副官になれば現在の年収より二桁増える、待遇が良くなる、レベルの高い仕事を任される、融通が利きやすくなるという利点はある。ラクはできるその反面、抱える責任の大きさもどんと増すが。



 バルーガは右手でグラスを持ってシャンパンを少量口にし、腑に落ちないこの微妙なモヤモヤした気持ちを吐露する。


「部隊を一つ任されるようになってからも、仲間と笑って呑み食いするのが楽しみ。オレはそれだけで十分満足してます」


 ティックは可笑しそうに、ふっと笑った。


「夢が無いな。ヒムと付き合ってた頃は、せめて地位や家名は欲しいと思って邁進してたのに」


「頑張って結果を出せば、ある程度は手に入る。それがシュノーブの騎士になれた者の特権ですから」


 そう。いまは競い合う相手や、追いかけたい相手が居ない。上々の人生だと感じてるせいか、張り合いが無くなってしまった。結婚したい相手も、振り向いて貰いたい相手も居ない。


 バルーガはグラスに残ってる分を(あお)ると、左手で頬杖をついた。


「あんまり深く考えたら、シュノーブの騎士じゃなきゃいけない理由なんてこれっぽっちも無いんじゃ?って結論に至りそうで、ぶっちゃけ怖いです」


「また胃痛が来るぞ?」


 そんで行儀が悪いからやめろと、指差す代わりにフォークの先で指してきたティックに、バルーガは「先輩もでしょ」とツッコミを入れる。


「バル、まだ二十代前半だろ?若いうちに立場が上になれば、シュッとした感じに身を修めることになる。人生を良い物にするための勉強だと考えるのも有りだぞ」


「けど、先輩。椅子に座るか動くかの二択が増えるの、しんどくなりませんか?」


「慣れるまでは、忍耐を養う訓練だと思え」


 副官補佐になると、現場へ赴いても命令したり待機することのほうが多くなる。或いは、急いで上官のもとへ報告に行ったり、代わりに駆け回ってかけ合うなど。

 そして仕事が終わったあとや休日は、貴族たちとの食事会に誘われることも。これまで関わりが少なかった大臣や要人との接触も増える。


「副官といえば、アーベズクとスティン、どちらかの下に就くことになるのか」


 上官だったサラが居なくなったあと、二人は割り振られた。同時にバルーガは団長コルヘニクス配下の騎士ではなくなり、後に任されることになる部隊に配置され、二年後には隊長に昇格。現在に至る。


「アーベズク様は団長の下。スティン様は、副団長の下で仕事なさってますよね」


「おまえはどちらに行く予定だ?」


 バルーガは、大きめに切った肉を頬張りながら答える。


「そこまではまだ」


「副官である二人に相談してみたらどうだ?」


「先輩は、どう思います?」


「どちらでもいい。バルが偉くなったら、俺の融通がさらに利きやすくなる」


「はあ。先輩らしいッスね。見返り貰わなきゃ、やってられませんよ」


 バルーガは気怠そうに笑った。

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