ダーバ:仲間を求めて
【あらすじ】
魔法剣士サマラフはセティナ、カニヴとともに、天牢の雪国シュノーブを南下した所にある砂漠の国チャイソンを訪れ、リュイと婚約破棄。
魔法軍事国家アイネスへ行き、魔術師の一族アンシュタットの長でもあるカロルと話を終えた彼は大使の座を返上すべく、ロアナを目指す。
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ペープスン=ヘルフニードの古城を囲む、魔女メリスティアの鬱蒼とした森。そこに棲む、幽鬼と化した魔女メリスティアは、永久不滅と言っていいくらい、何度倒しても二週間後には必ず復活する。
古城の主ペープスンへの強い怨みを晴らさぬ限り、誰にも成仏できないであろうと噂され、二十年が経過した現在。姿変わらず森に留まり続ける彼女は、その地の名物になっていた。
『魔女メリスティアを倒した者には、報奨金と価値ある褒美を与える』
ダーバ共和国の東部の一部、それも街道から外れた端のほうを領地にしている、小さな田舎の領主ペープスン。齢、六十七。彼には魔女メリスティアを何とか排除してほしいと思う気持ちが皆無だった。
「早朝でござるのに、もう三十組は居そうでござるな」
サマラフの左側を歩いてるカニヴは、長蛇の列を作っている冒険者たちの姿を見て、お祭りに来たような弾んだ声で感想を述べた。
最前列では、ペープスンに雇われてる執事と用心棒が、条件を満たした者かその場で確認している。
・六人以下で構成されたパーティであること。
単独でも可能。代理人は不可。
・年齢は十歳以上。能力が秀でた子どもは、応募時に力量を見せてくれたら応募資格が貰える。
・格闘家を除き、武器を持たない者、戦えない一般人は不可。
・本件に挑戦できる者は一組だけ。応募締切の三日後、くじ引きによって選ばれる。ペープスンは強運者を好むからだ。
以上が、酒場の掲示板に貼られていた、【ペープスンの魔女退治】と書かれた依頼書に記載されてる条件だ。
メリスティアを倒した勝者は、かかった時間に応じた報酬金と褒賞品が貰える。一人一品、好きな物を選ばせてくれるので、パーティで挑戦するのが断然お得だ。
サマラフたちもまた、魔女退治に応募すべく城門前の列に現れたが、エリカが抜けた穴を埋めてくれる魔術師を見つけるのが目的だ。
メリスティアはレベル上げや腕試しに持ってこいの強敵。挑みに訪れる者たちの大半が戦闘に慣れている。サマラフは此処ならと思い、立ち寄った次第だ。
アンシュタットから睨まれ、十二糸のうちの何人かと戦う羽目になるという此方の事情を理解してくれることが大前提の、非常に難しい条件付きではあるが。
列の最後尾へ行く途中、サマラフは意外な人物を発見して驚いた。
「あれは……」
少年の姿に変えられたままの中年男ナナチ。アルバネヒトの王族アルスダーク家に仕えていた元専属医。光輝に長けた者である。
サマラフは彼に近付き、好意的な笑みを浮かべて横から話しかけた。
「ナナチ殿。こんな所で再会するとは、思いもしませんでした」
「……。ちょっと、話はあとにしてくれる?」
「わかりました。では、彼方でお待ちしてます」
サマラフたちは列から離れて木陰に入った。
ナナチとの再会に、カニヴはわくわくする。
「幸先、良さそうでござるな」
カニヴの言う通り、此処で勧誘しない手は無い。
物理面に多少の不安はあるが、魔術を粉薬や液体に変えれて医師の心得もある光輝の使い手など、アルデバランの娘と同じくらい例外の存在だ。
「あの人数じゃ。すぐには来ぬだろう」
と、セティナが列を見て言った。
サマラフは木陰を作っている木の幹を背凭れにし、腕組みをする。
「だな。もし、ナナチ殿が仲間になってくださった場合を想定した計画でも練るか」
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時間潰しにと、今後について話し合いをするサマラフたちの所へ、用事を終えたナナチが行く。相手を待たせて申し訳ないなどと微塵も思わない足取りだ。
しかし、サマラフはそれを問題視する男ではなかった。
組んでいた腕をほどき、木の幹から離れて真摯に誘う。
「再会できたのは何かの縁だと思います。一緒に行動してくれませんか?」
ナナチは自分の腰に右手を置き、煙たそうに表情を歪める。
「ロアナで会ったとき、面倒ごとに巻き込むなって言っただろ?
ていうか、エリカさんは?」
「実は……」
エリカと離れた経緯を説明されたナナチは呆れ果て、軽蔑込めた目でサマラフの顔を睨む。
「あんた、馬鹿だろ」
(ぅ)
「面目ないって顔をしたって遅いよ」
「すみません」
ナナチは、はあ、と溜め息を吐いて腕組みをする。
「人が散々助言してやったのに。
まぁ結局、カロル妃の敷いた包囲網に入った時点で、逃げ切る策なんて無かったかもしれないけど。
あんたが無事で良かったよ」
「有難うございます」
それでと、ナナチは話を戻した。
「さっきの返事だけど。僕は縁とか運命とか、こじ付けっぽい言葉、あんまり信じない主義なんだよね」
「はい」
ナナチは左手で右肘を押さえ、右手で頬杖を着いた。
「大体さ、こっちばかり、あんたの都合で頼みを聞くのは不公平だろ?今回はロアナの駆け引きらしく、僕の頼みを叶えてよ」
「ペープスンの魔女退治ですか?」
「別件だ。列に並んでたのは、あの森とは別の方角にある敷地内に入らせてほしいって、許可を貰いに行ってただけだよ」
「何をすればいいのです?」と、サマラフが訊ねる。
「人探し」
ナナチはズボンのポケットに入れておいた、二回折り畳んだ紙を取り出して広げ、三人に似顔絵を見せる。代表として、カニヴが受け取った。
「若いおなご?」
「行方不明になってる女の子、と言っても、十八歳だけど、親御さん曰く、三日前から家に帰って来ないらしくてね。ひょっとしたらゴーストシットの餌食にされたかもって、近くを通りかかった冒険者が教えてくれたんだ」
「ゴーストシットとは、幽体か何かでござるか?」
「うん。人間の瘴気を吸い込んで膨張する奴。人間の、陰の氣が強ければ強いほど寄って行き、やがて変形する。そいつの駒となる幽体らしき者が近くを彷徨いてた情報も、別方向にある森の近隣に住んでる人たちから教わった。
退治しながらだと、僕一人なら、二日か三日はかかる。できれば、今日中に片付けるのが目標だ」
サマラフは真面目な表情で頷いた。
「光輝が使えなくても戦える魔物なら、喜んで加勢します」
「じゃ、頼むよ」
「ロアナで世話になった礼です」




