三度目の正直は(3)
エリカは、むすっと不貞腐れた目をする。
「本当は何があったか教えてほしいんですけど、皆さん何か隠してるみたいで、でも、何かの攻撃に遭った様子は無くて。でも、訊いちゃいけないのかと思って」
(前言撤回。バレる一歩手前だったぞ、これは)
サラはエリカのグラスが空っぽになったのを見て、酒を追加で注ぐ。
「何も無くても、客人のおまえに気を遣わせたり心配されないように気を回してると思っておけばいいんだよ」
悪酔い気味のエリカは半分ご機嫌な調子で「はぁい」と返事。
客室に案内させた騎士から問題ありませんでしたとの報告を受けたとエンは言ってたが、却ってエリカに悪いことをしてしまったなと、サラは心のなかで反省する。
(軽口叩く天才みたいなアーベズクが適任だったが、王城内では非常事態を除き、エリカに接近させるなっつう禁止令が兄貴から出されてるし、スティンは性格がツンとしてるからな)
「元気か気にするくらいなら、顔を見たほうが手っ取り早いと思いませんか?」
辛口の酒が悪さをしてるのか、今夜はやけにぐいぐい責めてくる。
「突然帰るって言い出したオレの責任だ。兄貴を責めてやるな」
「お食事くらい、同席できるのに」
あぁ、拗ねてるのかとわかった彼は、はっと笑う。
「そんなに恋しかったのかよ」
「サラ様が羨ましいです」
エリカは欠伸し、眠そうな目をする。
「明日また眠れそうになかったら、オレの部屋、訪ねてこいよ?酒無しで色々話を聴いてやる」
「今夜寝たら、あとは大丈夫です。心配してくださって有難うございます」
「それも明日になれば変わってるかもしれないだろ?」
「意地悪、言わないでください」
エリカはテーブルに突っ伏す。そのまま寝そうな雰囲気になってきた。
「おい、風邪引くぞ。ほら、立て」
サラは立ち上がって彼女の隣りまで移動。肩を貸してやるつもりだったが、立ち上がったエリカがふらついたのを見て、慌てて腕を掴んだ。
「おいおい。倒れるなよ?」
「医務室には行きたくありません」
「……。ちょっとだけ我慢しろよな」
「今日はもうこれ以上、我慢できません」
「だから、悪かったっつってんだろ」
サラはエリカを横抱きにして寝台へ向かう。
「…………オリキスさんにも、いまみたいにして貰ったことあります。あの日はオリキスさんの歓迎会で、私、参加しなかったせいで。わざわざ、うちを訪ねに……」
(初耳だ)
「オリキスさん、バルーンに教わってジュース作ったつもりが発酵しちゃって、お酒になってたんです」
サラは寝台の上にエリカを降ろし、布団をかける。
「本当は島の風習で、結婚しない男の人、寝室に入れちゃだめなのに運ばれちゃって」
(……此処は城だから大丈夫だよな?)
彼は気まずさを感じたが、寝台の端に座り、彼女が眠るまで話に付き合うことにした。
「…………オリキスさんに出会ったせいで、私の人生は散々です」
「今度は愚痴かよ」
エリカは悲しそうな目をする。
「……だって、ほかに誰も居ない家に一人で居たら寂しいって思うようになっちゃって。お父さんとお母さんが居ないときも寂しいなんて思わないように、ずっと頑張って押し込めてきたのに……、ッ……」
子どものように、うっうと泣き始めた。
弱い自分が嫌いだから虚勢を張る。孤独が嫌だから他人との結び付きを大事にしたい。そんな同い年の島民も居たが、エリカの守りたい物はずっと外側に在った。自分の願いを我が儘と捉え、後回しにしたこともある。
シュノーブから来た男魔法騎士オリキスは、エリカが押し殺してきた自我を掘り起こした。
「でも、今日は退屈のほうで良かった」
悲痛な思いにどんな慰めの言葉を与えるべきか、サラは天井を仰ぎ見、考えた。
「…………。オレの糸が切れたら、家族の一員として迎えてやってもいいぞ?」
振り返ってエリカの顔を見ると、気持ちよさそうに寝息を立てていた。
流し切れていない涙を、人差し指で優しく拭う。
(旅が終わったら、兄貴に相談してみるか)
*°.
エリカが酒の力を借りて熟睡してるなか、『彼』はノックせず、こっそり顔を見に現れた。ほかに良い人ができたか復縁されたのではないかと心配されたのをエンから話され、我慢できず会いに来たわけだが。
寝台に近付いても目を覚ます気配が無い。
無防備な可愛い寝顔に、愛しい気持ちが湧いて来る。
「!」
寝返りを打たれてしまった。
「……オリキスさん……。大好き……」
彼女の幸せな夢のなかに、自分が登場人物としてそこに居る。
彼は寝言でも嬉しくて、表情を綻ばせた。
布団の上から彼女の肩を優しく掴み、また仰向けにさせて顔を見下ろし、唇を浅めに重ねようとする。
(……ん?
酒か……?)




