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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx サマラフ篇【1】
171/199

三度目の正直は(1)



 運ばれてくる料理を黙々と食べて器を空にしていったエリカの前に、締めとして、濃赤紫色のムースが出された。


(これを食べ終えたら、今日の残り時間は一人で過ごすことになる……。書物を読むか……、私も報告書みたいなの書こうかな)


 城内も行ける階が決まっている。約束事が一日限定とはいえ、移動できる範囲が狭いのは退屈で仕方ない。


 エリカは右手でスプーンを持ち、ムースを掬って口のなかへ入れる。

 粉末にした香ばしい木の実に、調味料として使えるまで煮詰めた甘い果汁などを加えて作るショコラットの味。そこに、酸味の割合が異なるベリーを三種類使っている。



(美味しい)



 そして、残り二口ほどになったところで、


  ーー コンコン


「!」


 ドアをノックする音が聴こえた。

 エリカはスプーンを置き、給仕係りを務めている騎士は部屋の内側からノブを回して開ける。

 現れたのは。



「失礼します」


「!エンさん」



 エリカは、ようやく人に会えた気分になれた。



「お食事の邪魔をして、申し訳ございません」


「いいえ。久しぶりに会えて感動しました」


「私にですか?」


「はい……!」


 再会を喜ばれると思っていなかったエンは、温かい何かが心のなかで広がるのを感じた。


「……」


「エンさん?」


 彼は、その温かい何かの正体が嬉しいという感情であることに気付いたが、真面目な表情は崩さない。

 預かってきた封筒を、両手でスッと差し出す。


「クリストュル様が聴いたら、『私は?』と寂しがられますよ?」


 エリカは表情を綻ばせ、両手で封筒を受け取る。


「開けていいですか?」


「えぇ。お早めに」


 彼女は封蝋(ふうろう)が無いのを見て一瞬思考を止め、手の動きも止めた。


「エリカ様?」


「何でもありません」


 封筒を開けて便箋を取り出し、文面をじっくり読んだあと、誰から見ても残念がってるのがわかる目をした。

 今夜会えないのを知った彼女は便箋を畳み、封筒のなかに戻すとエンに渡す。


「エリカ様の手元に置いていいのですよ?」


「…………。少し訊ねたいことがあるんですけど、いいですか?」


「はい。答えれる範囲内であれば」


 エリカは立ち上がり、部屋の隅までエンに付いてきて貰うと、騎士に聴かれないよう小声で訊ねた。


「クリストュル様……、、、私に会いたくない理由があるんですか?」


「と、言いますと?」


「離れてから私の良くない所に気付いたって、言ってました?」


「は?」


「ほかに会いたい女の人が居るとかその、リラさんと仲直りしたのであれば……、無理に、会わないほうが……」


 一人で勝手に思い込んで気に病むエリカに、エンは、ははッと笑った。それも珍しく自然体で。

 隣りに居る彼女だけでなく、給仕係りを任されている騎士も不思議そうに彼を見る。

 人前で声を出して笑うエンの姿を見たことがある者は、此処では片手で数えるくらいしか居ない。



「エリカ様。あなたがなさった想像は、すべて不正解です」


「!」


「残念でしたか?」


「いいえッ……!」


 エンは先ほど返された封筒を、自分の懐へ入れる。


「本日のクリストュル様は、ご公務のほうで不機嫌になることがありまして。家臣である私も、少々手を焼きました」


「!」


「ご本人曰く、『僕も人間だから』、だそうです」


 エンはエリカの耳元に顔を寄せた。


「そんな獣みたいな状態で今夜会えば……」


「ッ!!」


 彼なりの意地悪い言葉であり嘘でもあったが、耳打ちされた内容を信じた彼女の顔は真っ赤になった。


「旅でお疲れになられてるあなたの体を労ってのことです。ご理解ください」


「、わかりました。では、待ってる分、会えるのを楽しみにしてます、と」


「えぇ、必ずお伝えします。

 明朝は技師(クラフター)の工房へ行けるよう、人を介してティック殿に連絡を入れてありますので、今日だけご辛抱ください」


 エリカは、テーブルが置いてある場所まで一緒に戻ると、頬に赤らみを残した状態で笑みを浮かべ、エンに感謝を伝える。



「エンさん、有難うございます」


「…………」



 彼は今日このとき、エリカに会えて良かったと思った。会話して何となく癒やされた気分になったのは、気を張りすぎて疲れていたせいかもしれないが。



 エンは敬い込めた一礼をエリカに送る。


「私のほうこそ、有難うございます。

 旅はまだ続きますが、お疲れ様でした」


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