↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第六話 二人は互いの生死をしる(柏 南)

  F1のソファに座り、母に連絡を入れる。

 すると、直ぐに私のもとへとやって来た。

「あなたどこにいたのよ。」

 私は素直に謝罪をする。母は、困った子ね、と言いたげな表情をするが、口には出さなかった。

「親子の時間を裂いてすまないが。」

 玄さんが申し訳なさそうに、間に入る。私は会釈すると、

「おう。悪いなぁ。で、早速、だが、」

 いきなりだった。前置きなど意味をなさない。私もそう思うが、母は、少し嫌な顔をする。

 だからといって、特になにか言うこともなく、私たちの会話を見守る。

「でも、特に話すことはもうないと思いますよ?」

 そう言うと、連日同じ内容の話をする。

「いや。昨日と同じ内容だよ。何か思い出してないかな?」

 申し訳なさそうに、言う。

 同じ内容と言うのが不思議な話で、あの日、作業員の人たちの話によると、Iの字の棒が落ちたとき、あの棒を抱えて一緒に落下した人がいるらしいのだ。

 でも、人が落ちてきてはいない。

「幻覚でも見たんじゃないんでしょうか?」

 連日通りの回答をする。すると、困ったように苦笑いをする。

「でもね、近隣の住民も、人影があったというんだ。何度もすまないが、何か思い出さないか?」

 だが、私には全くわからない。少し考える素振りだけして、首を横に振った。

 頭を掻きながら、唸り声を上げる。申し訳なさそうにいう。 

「そうか・・・。南ちゃんすまないね。今日で最後にするから、何か思い出したら、連絡してほしい。」

 今日はそれだけで終わった。まぁ、なにも成果がないのだ。だらだら続けても仕方ない。

「お役に立てなくてすいません。」

 申し訳なさそうに私も言う。すると、手を降りながら、

「いや、不安定なのに協力してくれて助かったよ。本当にありがとう。」

 母にも、申し訳なさそうに視線を送った。母はなにも言わずに、首を横に振る。少し複雑そうだ。仕方ないが、親としては、愉快じゃない。

 少しジレンマな感じのようだ。


 葬式が終わる。火葬場で焼かれ、骨だけになった、東の元体。なにも感じない。淡々と箸渡しをする。

 妹の沙良は泣き崩れている。おばさんもだ。それを東の親戚の人が寄り添い、無意味な言葉で無意味に励ましている。

 彼岸花が咲き、死者を誘うように風に揺れて踊る。

 楓が紅々と、血糊の様に染まる。

 空は晴天で、お通夜ムードにはそぐわないシチュエーション。

 流れ行く雲を恨めしそうに、私は見つめた。不条理だ。私の気持ちや都合などお構い無く、のうのうと進んでいく。

 形を変え、まるで無邪気に遊んでいるようだ。それが更に、私の気持ちを逆撫でする。

「東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・。」

 誰かの声がする。その声に耳を傾ける。だが、誰のものかわからない。

「東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・東・・・。」

 誰?軽々しく、私の東の名前を口ずさまないでほしい。

 そんな事を思っている時だった。

「おい!南!!」

 雅お姉ちゃんが、私に怒鳴る用な感じで名前を呼んだ。

「え?」

 私が顔を上げると、辛そうに歯を食い縛る雅お姉ちゃんが、私を見つめていた。

「そうか・・・。弟を・・・。そんなに・・・。そうだよな・・・。そうだよな・・・。」

 そう言うと、私を抱き締めた。気がつくと、軽々しく名前を口ずさんでいた声が消えた。

 雅お姉ちゃんの言葉で気がついた。

 あぁ、口ずさんでいたのは私だったんだ。私は私すらにも嫉妬してしまう、やきもちやさんだったんだな。


 あれから二ヶ月の時間は流れた。あっという間だった。窓から見える雲は楽しげに遊泳している。

 学校には行っていない。ただ、ただ、東を忘れまいと、東の名前を口にし、ノートやパソコンの執筆ソフトに東と書き続け、思い出も書き綴った。

 でも、途中で意味を成さないことに気付き、布団に入り、枕を濡らす。でも、気がつくと、また、書き始める。それの繰り返しだ。

 部屋から出るときは、トイレと風呂の時だけだ。トイレは二階にあり、行くチャンスはたくさんあるが、風呂はなかなか行けなかった。

 食事は母と沙良がいつも部屋の前まで持ってきてくれる。

 私は何て恵まれているのだろう。でも、私の心を満たす事はない。

 私は何て贅沢な子なんだろう。でも、それは望んでいるものじゃない。

 多分、私は屑だ。世界中にはこんなにも、貧困や暴力で溢れているのに、こんな我が儘を平気で通してしまう。でも、そんな事を考えるのは無意味だ。

 私が授かった環境だから、それをどうこうしようと私の勝手だ。

 そう。東が居ないのも私の環境だ。

 ・・・あれ?私って不幸・・・?

 余裕があれば、些細な幸せを噛み締めず、余裕がなければ、生きていることすら幸せに思う。多分、余裕なんだろう。

 そんなの人の価値観だと言うのなら、その人は余裕なのだろう。

 私は立ち上がり、パソコンへ向かう。

 今日は、ネットサーフィンをする。

 無意識にキーボードを打ち込んでいた。検索結果はたくさんの掲示板や、ブログだった。

 適当にクリックする。そのブログは黒や赤や紫などの色が多用された、毒々しく、不安を煽る雰囲気を醸し出す。また、適当にクリックする。

 顔がめちゃくちゃで、お腹から中身が飛び出している遺体。

 適当にクリックする。

 ミンチになり、原型を留めていない紅と白っぽい肌色が混ぜられた、シェイク。

 適当にクリックする。

 緑色に変色し、青い血管が全体的に浮き上がった、自殺者。

 適当にクリックする。

 動画が流れる。刃渡り60センチ位の曲刀を持った男がいる。その男の前に膝を突き、縄で縛られ、顔を麻のような材質の袋で覆われた男らしき人物がいる。曲刀の男は容赦なく袋男のうなじめがけて振り落とす。

 あぁ、なにも感じない。気持ち悪くもなく、不快にも思わない。

 東が死んでから、こんなサイトばかり見ている。

 きっかけは、適当にクリックした掲示板だった。

“検索してはいけないシリーズ”

 というモノで、グロいものや合成写真や電波なサイトがヒットする。

 最初から今まで、それにより、不快になることはなかった。

 精神が麻痺しているようだ。どんなにグロいものを見ても今の私なら、ご飯を食べながら観賞してしまうだろう。

 適当にクリックする。

 見覚えのある交差点だ。どういうアングルで撮っているのだろう?すごい無理がある体勢に見える。

 車が行き交う。歩行者の信号は青に変わった。そこから人々が歩き出すのが見える。人々が真ん中に差し掛かった時だった。なんの前触れもなく、トラックが突っ込んでくる。みんなきれいに飛ばされていく。そこで、私は身体中の血液が下へと降りてくるのを感じた。

画面がスローに見える。その中で身体中が鳥肌になり、カタカタと体が震え出す。

 飛ばされた人の一人がこちらに飛んでくる。

 その人は下半身がない。長い髪をポニーテールにし、二重の瞳は光がない。カメラに向かって、何かを言う。

「死に・・・たく・・・な・・・い・・・。あ・・・ず・・・。」

 そこで息絶える。そこでテロップが流れた。

“本人様へ。近くの公園にて待っています。動画の真相をお教えします。ロキ。”

「あっ、あ、」

 言葉にならない声。頭の中は真っ白。

 これは何?これは何?これは何?これは何?これは何?これは何?これは何?これは何?これは何?これは何?これは何!?

 そして、プツンと、耳の中でテレビの電源が落ちたときの音が鳴るのと同時に結論が出た。

「私だ。」

 巻き戻しのような逆風が、私を襲う感覚。真っ白と真っ黒の狭間のような感覚。モノクロが逆さになる感覚。雲が見える。あの雲はどこから来た雲なのだろう?あの雲は知っていたのだろうか?見ていたのか?

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 悲鳴がやっと出た。カタカタと小刻みだった震えはガタガタに変わった。

「お姉ちゃん!!」

 沙良が勢いよくドアを開けて、入ってくる。それに続いて、何故か制服姿の空音が入ってくる。

「南!!」

 身を震わせ、血の気のない私を、ただ、ただ、驚愕と心配が入り交じる瞳で見詰める。

「どうしたの?ねぇ!。」

「・・・!?」

 答えようとした。でも、出てこない。

 私は首を横に振った。

「ぁぁ、ぁぁ、ぁぁ。」

 呼吸のようなものしか発することができなかった。

 空音が近づいてくる。

「どうしたの!!何があったの!!」

 画面はテロップと下半身のない私の姿で止まっている。それが目に入ったのか、空音は眉間に皺を寄せながら画面へと顔を除き混んだ。

 私同様、血の気が引いていく。

「南・・・。何これ?」

 私が聞きたい。こちらに向き直り、私の肩を掴んで揺する。

「何よこれ!!ねぇ!!南!!」

 その間に、沙良が入る。

「やめて下さい!!どうしたんですか!!」

 そして、画面へと顔を向ける沙良。

「!?」

 数秒程、沙良が固まる。画面の中身が何かを理解すると、

「いやぁぁぁぁぁぁぁ。」

 叫び声を上げた。それが終わると、気絶してしまった。


 沙良を空音がベッドに寝かせる。沙良の部屋をでて、私たちはリビングに向かった。

 喉が渇き、水を飲んだ。それで体の震えが和らいだ。

 食卓の椅子に座ると、空音が単刀直入に話し出した。

「南。あれは何?なんの冗談?」

 不快そうに言う。

「わからない・・・。」

 ぼそりと私がいうと、少し苛立ち気味になる。

「わからないって、あれはなんなのよ?あれはどう見ても貴女じゃない!!」

 私は沈黙することしかできなかった。

 すると、乱暴に机を叩いた。

「南!!しっかりしなさいよ!!沙良ちゃんね、あなたの為に必死で自分を騙して、尽くしてくれてルんだよ。無理なのは解るけど、それでも、もう少し無理してもいいんじゃないの?」

 親友の言葉は、ごもっともだった。返す言葉がない。

 分かっている。分かっている。私だって、何度も挑戦した。でも、ダメだった。それは心臓を意思の力で止める事と同じように、何度も挑戦したけど、ダメだった。

「私、行ってくる。」

 その言葉に私は顔を上げる。

「あの画面に、書いてあった近くの公園に行ってくる。ロキとか言うやつをとっちめて、どういう用件か聞いてくる。」

 私はすがるように手を掴んだ。

「待って。やめよう。どんな人かもわからない・・・。危ないよ・・・。」

 そう言うと、私の手を振りほどいた。

「ふざけるな!!親友をこんなにして、沙良ちゃんにもショック与えて、何より、相手をぶっ飛ばさないと私の気がおさまらないよ!!」

 私は下を向いてしまう。

「あなたね、妹があんなんになって、自分も傷つけられて、悔しくないの?怒りとか沸かないの?」

 とは、言っても、空音は弓道部だ。ぶっ飛ばすにしても、殴り合いじゃ勝てないのではないか?相手が男ならなおさらだ。私が棒術を用いてなら勝てるが、弓だと手加減もくそもない。刺さるのだから。

「私行くから。」

 何も言わない私に見切りをつけ、ドアに手を掛ける。

「待って!!」

 自分でも驚くほど、声が出た。それに空音が振り替える。

「私も行く。着替えたいから少しだけ待って。」

 少し、口端をつり上げたように見えた。

「四十秒でしたくしな。」

 と、どこかで聞いたことのある台詞を口にした。

 私は階段を駆け上がり、服を動きやすい物に着替えた。細長い袋に、棒術用の棒を袋に納めた。

 階段を下りると、羽の具合を確かめている空見がいた。

 私に気がつくと、立ち上がった。

「一発で仕留める。」

 ヤル気満々のようだ。

「殺しちゃダメだよ。」

 私が吹き出し気味に言うと、なんだか安心したような息を吐き出した。

「やっと、まともに話してくれたね。」

 殺す殺さないがまとも?と、思ったがそうじゃないのだろう。私は真面目に言ったのだが、空音は冗談を冗談で返してくれたと思ったのだろう。

私たちは、家出た。


 久しぶりの外出は、晴天だ。窓から空は見ていたけど、何か違って見えた。

 あの小さな雲はどこから来たのだろうか?

 そんな無意味な思考をしてみる。

 私たちは終始無言。公園が近づくにつれて、顔が険しくなっていく。

 そう言えば、まだ、誰ともすれ違っていない。この道はけして人通りが多くはないが、今日のように人っ子一人いないのは初めてだ。

 それに空音も気がついたのか、辺りをキョロキョロする。

 公園につくと、無駄に広いグラウンドが出迎えてくれた。そこでも違和感に気がついた。

「今日はおじいちゃんやおばあちゃんたちの、ゲートボールがやってないんだね?」

 空音が口に出して言う。私も同意した。

「うん・・・、珍しいね。今日みたいな、天気のいい休日だと、夕方までお茶しながらゲートボールやっているのに・・・。」

 それだけじゃない。いつも可愛がっていた猫や、子供たちやおじいちゃんやおばあちゃんたちに餌くれと群がる鳩とかも一匹もいない。

 何もいない。世界で生きているものは、私たちだけじゃないのかと思うほど静かだ。何かおかしい。

 公園の時計を見て、そのおかしさに、拍車を掛ける。

「ねぇ。」

 私が指差すと、空音はその方向を見た。空音は目を見開く。

「え?」

 時計が止まっている。私たちが家を出た時間。13時45分で止まっている。

「ここの時計って止まらないよね?故障?」

 空音が瞬きしながら言う。

「うん。でも、止まっている時間って、私たちが家を出た時間・・・だよね?」

 変な汗が額を濡らす。空音もそうなのだろう。汗を拭う素振りをする。

「私たちは、おとぎ話の様な世界にでも紛れ込んだの?」

 と、冗談っぽく言う。私もそう思った。

 とりあえず、ロキという人を探すことにした。グラウンドには誰もいないから、遊具の方へと向かう。

 遊具があるところと、グラウンドの間に着いた。そこには大きな丸い花壇のがたくさんあり、花ではなく、木が植えてある。一本の木に一つの花壇となんだか贅沢に見える。

 そこを通ったときだった。私たちの真横の木の影に人が立っていて、私の名前を呼んだ。

「南さん。お待ちしてましたよ。」

 男とも女ともつかない中性的な声だった。

 私たちは、驚き肩を上下させる。

「あっ、驚かせてしまいましたね。」

 そりゃ、誰でも驚く。あんな無防備で、いきなり話しかけられれば、驚かない方がおかしい。

 私は、袋に入ったままの棒を構える。空音も信じられない程手早く、弓矢を袋から出して、もう弦を引いている。

 改めて、相手を見る。黒革のロングコートに黒革のパンツに黒靴の手袋。黒の鍔が物凄く広いテンガロンハット。鍔の所為で、表情は伺い知ることは出来ない。

 私たちの様子に、手を上げて見せる。

「いやいや。私は無害ですよ。」

 焦る様子もなく、呑気な口調で言う。

「あんたがロキ?」

 弦を引く空音がぶっきらぼうに聞く。

「あ、はい。そうてすよ。私があの動画を投稿したロキです。」

 他人事の様に言う。それに苛立ち、矢を放つ。

 矢は私の耳元を風を切って進み、ロキの顔すれすれを通り音を立てて木に刺さる。

 空音はもう、次の矢を弦に掛けて構えた。

 ロキは矢を気にせず、驚く素振りも見せなかった。威嚇射撃に失敗した空音が苛立ちげに言う。

「次は当てるよ。」

 口調から本気だとわかる。私はそれに合わせて動けるよう、地面を踏みしめる。電光石火の一撃をお見舞いする事だけを考える。

「いやぁ。痛いのは嫌だなぁ。どうにかならないかな?」

 相変わらずの物言いに頭に来た空音が矢を放った。耳元をまた、ピュゥ、と風を切る音が聞こえた。それに反応し、私は地面を蹴る。

 だが、私の棒は振り上げることもなく、立ち止まる。私は目を見開いた。後ろから、空音の驚嘆が聞こえる。

「え?」

 ロキの体に飛んでいった矢は、当たった。いや、当たった事に驚いたのではない。空音はそんな下手くそじゃない。玄人も唸らせる程の早打ちで的確に的に当てる腕前だ。

 何に驚いたのか。それは、ロキの体だった。

 当たったところを中心に黒い渦を巻いて、それは良く宇宙もののブラックホールに使われるCGの様に歪んでいる。

「すいませんねぇ。驚かせてしまいまして。」

 渦が吸い込まれるように消えた。その時、矢も一緒に飲み込まれていく。

「私は戦いたくありません。話を聞いていただきたいのですが・・・あの・・・?」

 私たちは、石のように固まった。目の前で起きた超常現象、はたまた、私たちが知らない現実。この世のエラー。色んな言い方があると思う。

 兎に角、言葉がでない。

 何が起きたのかは分かる。でも、それが何なのか分からない。

 そんな私たちを、ロキが少し焦り気味に呼ぶ。

「おーい。大丈夫ですかぁ?気を確かに~。」

 呑気な口調に聞こえる。そこへ、聞いたことある声が、さらに私たちの困惑と驚愕に拍車を掛けた。

「ロキさん!!勝手に行かないで下さい!!」

 その声の主に反応し、私たちは、そっちを向いた。

 遊具の方から沙良がやって来たのだ。しかも、ファンタジーに出て来そうな布の服にマントを羽織、身長も顔立ちも大分大人びた沙良。

 もう、私たちの現実はハチャメチャで目の前の事を理解出来ずにいる。

「お姉ちゃん!!空音さん!!ん?」

 私たちが呆然としていることに気付き、ロキを睨んだ。

「何をしたんですか!!勝手なことはしないでくださいって、あれほど言ったのに!!」

 帽子を掻きながら、まいったなぁ、と素振りを見せるが、口調は相変わらずだった。

「いや~。戦意はないって言ったんですが、矢を打たれましてねぇ。歪み系の特殊能力で防いだんですよ。」

 すると、ポカポカとロキを殴り始める。

「あなたが悪いんですから、潔く、射抜かれればいいんですよ!!」

 それに、あはははははは、と、笑ながら、誤魔化す。

 気が済むと私たちの方へと、近づいてくる。

「お姉ちゃん、空音さん、驚かしてごめんね。」

 戦意喪失な私たちは、武器を下ろした。

「あなた、その格好・・・それに・・・。」

 言葉が上手く出ない。少し困った様な顔をして見せる。

「あ、えっと、何から話せばいいかな?」

 振り返り、不機嫌な顔をしながら、ロキにぐうたれる。

「もう!ロキさんの所為で、また!、また!!ですよ!!また、話がややこしくなってるじゃないですか!!」

 腰に手を当て、片方の手を上げ、ピースする。

「面白くなっていいじゃないですか。」

 その態度に沙良は、怒りを通り越して、呆れたようにため息を着いた。

「面白いのは貴方だけでしょ。だから巨人と神のハーフは・・・。」

 頭に手を当て、痛そうにして見せぶつぶつとなにか言っている。置いてきぼりの私たちには、何の事だか分からない。

 そこに、空音が私に耳打ちする。

「沙良ちゃんでいいんだよね?」

 私に尋ねるが、確証はない。顔立ちや声は確かに沙良のものだ。それは確かだ。

「多分ね。」

 と、曖昧に答えてみせる。すると、私から離れ、二人の様子を伺う。 

 沙良がまた、ため息を漏らし、私たちの方へと向き直った。

「仕方ないわね。まぁ、立ち話もなんだし、私のプライベートハウスに行きましょう。」

 そう言うと、何やら唱え出す。すると、魔方陣の様なものが、沙良の足元に浮かび出した。

「時空の狭間にありし場所、宇宙のは終わり行き着く場所、世界の一つであり、世界の一部である場所。

 ここに開け!!アストラル・ドア!!」

 すると、ピンク色のドアが現れた。青狸のドアによく似ている。

 何もない空間から現れ、私たちは、目を見開き固まることしか出来ない。

 そのドアを開けて中に入り、沙良が私たちに入るよう促す。ロキを睨み付ける。

「ロキさんは自力できてください!!」

 プンプンと、頭からガスを噴出させながら言う。

 私たちは言われるがまま、中に入る。


 そこは不思議な場所だった。空には虹がかかり、見知らぬ鳥や蝶が飛ぶ。丸い球体が、道を作るように左右に置かれている。

 沙良が歩きながら、話をする。

「これから話すとこはお兄ちゃんのことね。」

 その言葉に私は反応する。

「東の事!?」

 私の雰囲気が尋常でなかったのだろう。少し驚いてみせる。

「そ、そうだよ。これからお兄ちゃんに、会って」

 そこで私は思考せずに口を挟んだ。

「何言ってるの!!東は死んだのよ!会うって、適当なこと言わないでよ。」

 私は八つ当たりの様に言うと、空音が肩を掴んだ。

「落ち着ついて!!沙良ちゃんが困ってる。」

 私はそれを振り払い、沙良に掴み掛かる。無意識のうちに口調が無機質なものに変わっていく。

「ねぇ、ふざけたこと言わないでよ。東に会えるって、なら、今すぐ連れていってよ。ねぇ。」

 沙良はの表情が焦りを見せた。額から汗を掻いている。

「待って、大事な話もあるし、この世界の事や・・・。」

 私は握る手にさらに力を込めた。

「そんなのどうでもいい。会えるなら会わせてよ・・・。東さえいればいいの。世界だのなんだの私には知らない。早く会わせて・・・。次は間違わないから・・・。」

 沙良は黙ってしまう。

「ねぇ。何で黙ってるの?まさか嘘なの?ねぇ。何か言ってよ・・・。」

 私は今にも泣き出しそうだ。

 そんな私を、沙良は哀れむ様に見下ろす。そして意を決した様な表情をする。

「空音さん。戻るなら今です。ちゃんと説明していませんが、お姉ちゃんが不憫でなりません。これから案内するところは、契約を終わらせないと、戻ってこれません。戻ってこれたとしても、今までの感覚で生きていくことも、困難になります。」

 沙良は顔を上げ、空音に問う。

「どうしますか?」

 空音は、困惑気味だけど、確かな意思をもって言った。

「意味が分からない。でも、そんな状態の南を一人にするのは出来ない。だから、」

 一拍置き、腹を括る。

「私も行くよ。」

 そう言うと、強く頷いて見せた。

 家の中に入り、廊下を進む。

「空音。さっきは取り乱してごめん。無理しなくていいよ。」

 私は冷静さを取り戻していた。正直、私の自分勝手に罪悪感を感じて、悪いと思った。

 でも、空音はそんな私の気持ちをくんでくれたようで、いつもの口調で私の心を刺しながら言う。

「何を今さら言ってるのよ。あんたは昔っからそうでしょ。内気で、自信もなく周りに溶け込めないコミュ障の癖に、東の事になると、右も左も前も後ろも見ずに突っ走る。」

 私の顔が、かぁ、と熱を帯びる。それを楽しんでか、意地悪い笑みを作る。

「でも、そんな南の一途さは凄く気に入っているんだよ。」

 途中を曲がり、少し行くと直ぐに沙良が膝を着いて、また何やら唱え始めた。

「我が命により幻影に隠されし扉よ、今、我はその、幻影を一時的に取り除く事を命じる。これは、我と、汝の、契約の元、我は命じる。

 術式は西。聖獣は白狐。我、解き放つ。“アン・ロック”」

 四角い魔法陳が浮かび上がると、その形のまま、床が開いた。

 沙良が私たちの方を向き、また、言う。

「考え直すなら今ですが・・・。」

 私たちは、首を横に振る。

「分かりました。」

 私たちの決意を悟ってか、沙良はそれ以上何も言わずに、入るよう手振りする。

 私たちは、それに会わせて歩き出した。

 中に入った時だった。沙良が慌てて私達を引き止める。

「ごめんなさい。中の説明していませんでした。この階段をまっすぐ下りて行ってください。一番下にドアがあります。そこを開ければ、お兄ちゃんがいます。」

 それに頷き、進んでいく。だけど、足を止めて、ふと思う。

 私は振り返る。

「沙良は来ないの?」

 沙良は申し訳なさそうに返事をする。

「私が出来るのは、ここまでだから、一緒ににいけない。」

 そう言うと、床を閉めた。

「何か事情でもあるんじゃない?」

 自分より年上の妹と別れることに少し惜しむ顔をしていた私に、空音が慰めるように言った。

 ドアまでは数分で着いた。

 私は空音の方を向くと、強く頷いてくれた。

 私も釣られるように強く頷く。

 私はドアノブに手を掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。