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第五話 二人は互いの生死をしる(柊 東)

 南の葬式が終わり、それからはずっと引きこもっている。

 季節はすっかり秋になり、色付く街路樹の木々が、街を染めているだろう。

 引き籠って二ヶ月が過ぎ、俺の部屋に来る者は親友の山田と、沙良だけだった。雅もたまに来るが一言、二言、言うだけだ。多分、生存確認をしているのだろう。

 両親は何も言って来なかった。俺の事を信じてか、見捨ててか、分からない。

 俺が部屋から出るのは風呂と便所の時だけだ。

 ご飯は母か沙良が部屋の前に持ってきてくれる。

 例の窓は、雨戸を閉めて、封印した。こうでもしないと、沙良が入ってきてしまうからだ。

 引き籠り中は主にネットに逃げた。掲示板やMMORPGやらに逃げて、時間と南を忘れるようにしたが、気がつくと布団に入り、泣いている。

 人間は厄介な生き物だ。デリートが難しい。

 忘れるのではなく、デリートしたいのに、うまくいかない。

 そんなことを考えながら、オカルト板に足を運んだ。

 内容は病気染みている。まぁ、病心なのは俺も同じなのだが・・・。

 あるスレに、目を引く。

“おまいらの持っているオカルティックな画像を貼ってけ(・∀・)フェイクイクナイ”

 そこそこレスが伸びていた。面白半分にそこを覗く。

 色々なURLが張られていた。ウィルスチェックをしながら、画像を見ていく。

 少し前に流行った、グロイだけのなんも怖くもないホラー映画みたいな画像ばかりだったが、本当にプライベートな写真にモザイク加工をした、ガチっぽいのもあった。

 レスの頻度は一日辺り8~10ぐらいで多いときは40くらいだ。

 1から見ていき、時間が過ぎていく。3時間程で最新の723レス目に到達した。時間を見ると1分前にレスされている。タイミングが良いと思った。

 早速、URL を開いたとき、俺はディスプレイに映る画像に鳥肌がたち、驚愕する。体はわらわらと震えだした。

「なんだよこれ!!」

 声を上げていた。漫画とかでよくやる、ディスプレイをもって顔を近付けるという行為を、本当にするとは思わなかった。

「なんだよ!!これは!!なんなんだよ!!」

 俺の声が響き渡る。だが、誰も来ない。それはそうだ。朝に、車が出ていく音がしたし、その後、沙良が俺の部屋の前に来て、両親と雅が遠出するということを言っていた。

 でも、仮にいたとしても、この叫び声は押さえられなかった。

 投稿されていたものは、俺の写真だった。しかも、南も写っている。

 南は尻餅を付いていて、俺は・・・、首から血を吹き出している。俺は何がなんだか理解できなかった。

 ドタン、と勢いよくドアが開いた。俺はびっくりし、肩を上下させる。

「お兄ちゃん!!どうしたの!!」

 恐る恐る、声の主の方を見ると、沙良だった。

「お兄ちゃん?」

 俺の体勢にキョトンとする。葬式ぶりに見た沙良は、上手く折り合いをつけたのか、瞳に光が戻っている。雰囲気もあの時とは違う、いつもの沙良だった。

「何してるの?」

 ディスプレイに抱きついている俺を不思議そうに見つめる。

「え・・・、いや・・・」

 返答に困った。どう説明しようか考えている時だ。下の階から玄関が開く音がした。

 誰だ?と思った時だった。ちょくちょく聞く声と、久々に耳にする声の二つが一階から沙良と俺に向けて、声を掛ける。

「どうしたんだ?」

 男の声だ。これは親友の山田 海音(かいと)のものだ。

「二人とも大丈夫?」

 女の声だ。これは海音の双子の妹の空音(そらね)のものだ。

 空音は南の親友だ。部活後の下校時によく四人で帰っていた。

 二つの足音が俺の部屋目指して聞こえてくる。

 二人の声に沙良が答える。

「大丈夫です。」

 そう言うと、同時ぐらいに二人は俺の部屋に入ってきた。俺は気まずくなり、ドアから顔を背けた。

「よう。久しぶり!」

 スポーツがりの、精悍な男を思わせる顔立ち。目と鼻の堀が少し深く、はっきり言ってイケメンを形容する男。それが海音だ。部活で剣道をやっていて、細身でありながら、かなりの腕力を持っている。

「心配してたんだよ。」

 困った笑みを俺に向けるこの女が、空音だ。一卵性双生児らしく、よく似ている。彼女もまた、精悍な女性を思わせる。海音同様、目と鼻の堀が少し深く、海音が女だったら、こんな美人になっているであろうと、思わせる。ただ、海音と違い、髪はおしりの辺りまで伸ばしていて、洋風日本人形と呼ばれている。空音は海音が剣道をやっているのに対し、弓道をやっている。

 二人は神妙な顔をする。そりゃそうだろう。漫画みたいにディスプレイに張り付いている人間の姿を見れば、俺でもそうなる。

「何してるの?」

 沙良同様の疑問を、俺に投げ掛けた。

 俺は戸惑っていて、言葉がでない。すると、海音が、名探偵風に顎をさすりながら近づく。

「さては、エロイの見てたんだろう?」

 その言葉に沙良と空音は、恥ずかしそうに顔を朱色に染めた。

「くっ、来るな!!」

 そんな俺の願いも無視して、ニヤニヤしながら近づいてくる。

 俺の前までくると、ディスプレイから俺を引き離そうとする。俺は必死に抵抗した。

 空音が嫌がる俺を見て、海音を制止しようと、一言言う。

「止めなよ!!嫌がってるじゃん」

 だが、頬は朱色のままだ。多分、エロイものだと思っているのだろう。だが、そんなこと、今はどうでも良い。とにかく、この画像だけは見られてはいけないと思った。

 でも、抵抗虚しく、ディスプレイから引き剥がされる。

「どれどれ、お前の趣味は妹モノから何に変わったんだ。」

 と、いらぬ情報を二人にさらしながら言う。沙良の頬が更に赤くなり、空音は、少し、引いている。

 だが、ニタニタとしていた海音の顔は、青ざめ、静かにぼそりと言う。

「なんだよ・・・これ・・・。」

 まだ、ディスプレイを見ていない二人が首を傾げる。

 海音は立ち上がり、俺の胸ぐらを掴んで怒鳴り出した。

「お前!!なんだよこれは!!ふざけてるのか!!あぁ。」

 二人は急な海音の変貌に驚く。空見が駆け寄り、海音を止める。

「止めなよ!!どうしたって・・・言う・・・。」

 声のトーンが途中から下がった。困惑している。ディスプレイの中身を見たからだろう。

 沙良も何事かと、ディスプレイを見にこっちへくる。

 ディスプレイを見て数秒、沙良が固まる。頭の中で、この画像が何なのか理解すると、沙良は、悲鳴を上げ、錯乱した。


 俺たちは落ち着くため、リビングへと降りた。沙良は、ショックから立ち直れていないのか、座ったまま、終始無言だ。あの時のように、瞳に光がない。

 二人はと言えば、不愉快と言う言葉がぴったりの顔で、眉間にシワを寄せている。

 俺はただ、ただ困惑し、戸惑い、三人に説明するときも上手く整理出来ずに、話していた。

「つまり、掲示板に貼って合ったURL を開いたら、あんな冗談にもならない、ふざけた画像が貼って合ったんだな?」

 海音が苛立ちながら、乱暴に言う。俺が頷くと、胸の前で、左手をパーに開き、右手を拳にして打ち付ける。

「誰だよ。あんな合成写真・・・しかも、東の心を抉るような真似をしたクズは!!」

 相当、頭に血が登っているようだ。

「でも・・・。」

 空音が不愉快な表情のまま、首を傾げ言う。

「あれ、どう見ても、合成じゃないよね?」

 それは俺も思った。合成独特の違和感もないし、第一、あれを作る素材を何処で手に入れたのだろうか?

 演技で俺はあんな顔したこともないし、いくら加工技術が進歩しても、あそこまでリアルな表情は無理だろう。

 それを言うと、相変わらず興奮気味に言う。

「じゃぁ、あれは本物なのか?お前は、首から血を流したのか?南の前でいつ、あんなことになったんだ?」

 更に、苛立つ海音。空音が、腕を組唸る。

「さっきの話によると、投稿されてたのは、最新のモノよね?」

 かなり不機嫌な言い方だった。さすが双子である。いや、双子じゃなくてもそうなるか。

「あぁ。俺が見る1分前のレスだったはずだ。」

 空音は、組んでいる腕を解き提案する。

「投稿者本人に聞きましょう。まだ、そんなに時間は経ってないし、聞いてみれば返答があるかもしれない。」

 その手があった、と二人して納得する。ただ、沙良は、相変わらず無言のままだった。少し、身を震わせている。

 そんな沙良の様子に、空音が優しく問いかける。

「沙良ちゃんはここに残る?」

 すると、首を横に降り、ボソボソと言う。

「自分の部屋に・・・戻る。」

 そういうと、立ち上がり、力なく玄関へと向かった。

「ありゃ、ヤバイな。」

 喉に何かを詰まらせたように海音が言う。空音が俺達の方を向き、提案する。

「私、沙良ちゃんの面倒みるね。」

 俺達は頷いた。

「悪いがそれが良いな。」

 俺がそう言うと、空音は俺を睨み付ける。

「あんまり言いたくないけど、この際だから言っておくわ。」

 そして、俺の前に来て、平手打ちを頬にかまされる。

 俺はびっくりし、叩かれた頬を擦り、瞬きをする。そんな俺にお構い無く、空音は続ける。

「もっと、あんたがしっかりしなさいよ!!気持ちはわかるけど、沙良ちゃんは、あんたの為に一生懸命、気持ちを押さえつけて、あんたの事を心配してるだよ。」

 わかっている。でも、俺にどうしろと言うのか・・・。自分の事でいっぱい、いっぱいで・・・どうしろと言うのか・・・。

「少しスッキリした。私はいくから、何かあったら、メールしてね。」

 そう言ってリビングをあとにする。

 俺達二人は気を取り直し、二階の俺の部屋に向かった。

 ディスプレイはあの画像のままで、俺も海音もその画像を見て、不快になる。

 俺は机に座り、マウスで操作を開始する。

 戻るボタンをクリックすると、自働で更新され、レスが伸びていた。

 もう790件に達した。

「何か色々と書き込みされているな。」

海音が、怪訝そうに言う。それもそうだろう。匿名の掲示板だ。言いたい放題言えるに決まっている。

「まぁ、仕方ないよ。匿名だし、あっちはこっちの事情何かわからないからな。」

 なにか言いたげな視線を向けるが、口に出すことはなかった。

 俺は書き込みを始めた。

『723の人。この画像は何処で手に入れたんですか?』

 書き込み後、数分で返事が来た。

 その内容に俺達は、驚愕する。

『写真の人だね。近くに公園があるよね。そこで待ってるから。そうだなぁ。私は直ぐに着くから。んじゃ、後で。』

 俺達は互いに顔を向ける。

「近くの公園って、あのグラウンドがやけに広い公園か?」

 海音の言葉に頷く。

「多分な。あそこが一番近い。でも、どうするよ?」

 こんな訳のわからない怪しい奴の指示に従うのは、正直、ビビるし手ぶらで行く気は起きない。海音も同じだ。

「木刀が確かあったよな?」

 予想通りの台詞に直ぐに頷いた。

 俺はすぐに準備した。細長い袋を二つ出し、そこに、木刀と槍の練習で使う、槍を模した細長い棒を入れる。

 俺は服を着替え、二人でそのまま、家を出ていく。

 外は晴れている。久々の風が心地よかった。陽の光はすごく眩しく、目が痛い。でも、そんなことは気にしてられない。

 足早に公園へと向かう。緊張からか、俺も海音も、険しい顔になる。

 しかも、相手は俺の事を知っているようだ。何より疑問なのは、たまたま開いたスレに、しかも俺が723レス目に達する1分前に、何故、画像を張り付ける事が、出来たのだろうか?

 まるで、後ろから見ていたかの様なタイミングだ。

 それだけじゃない。何故、俺だとわかったんだ?、何故、近くに公園があるのを知っているんだ?

 俺の知り合い?、でも、こんなことをしそうな奴は、俺は知らない。

 海音も同じように疑問を俺に投げ掛けたが、全くわからない。

「付けば投稿者に会える。そこでじっくり、話を聴こう。」

 そう言うと、海音は少し悔しげに頷いた。


 公園に着くと、俺達はグラウンドを横切って行く。俺はグラウンドの真ん中辺りから、違和感を感じ始めた。

 それは俺だけじゃなく、海音も感じた様で、辺りをキョロキョロと、見渡す。

 そして、その違和感が何なのか、が、グラウンドと、遊具の間にある時計を見て気がついた。

 時計が止まっている。秒針が動いていなかった。公園の時計は、太陽電池と電線から引いた、ケーブルから伝ってくる電気で動いている。故障でもない限り、止まるわけがない。いや、故障だろうって?そのわりには何ともタイミングの良い止まりかたをする。だって、俺達が家を出た時間ぴったりで止まっているんだ。そんな偶然があるだろうか?

 俺は今、携帯を持っていない。忘れてきた。だから、海音に携帯の時計を見てもらう為、聞く。

「あぁ。良いよ。」

 そう言って、ポケットから携帯を取りだし、電源を入れるが、出た言葉は、静かな叫び声だった。

「え?マジかよ・・・」

 凄く萎えている。

「どうしたんだ?」

 そう聞くと、携帯の天辺についている、電源ボタンを何度も押しながらこちらに向ける。画面は真っ暗で、主電源が落ちているんじゃないか聞くと、カチャカチャ押していた指を長押しにして見せるが、相変わらず、画面が暗いままだった。

「さっきまでは使えたんだが・・・。」

 真新しい所を見ると、機種変したばかりだったのだろう。

「やっぱり、ここおかしいな。」

 俺がそう言うと、涙目で頷いた。

「それは俺も思った。」

 ショックだったのか、声に張りがない。安心させる為に、俺が今気がついた事を、話す。何ともファンタジックな話を添えて。

「多分、それ、壊れてないぞ。」

 そう言うと、慰めはいい、と、力なくこぼす。

「いや、本当だ。」

 公園の時計を指差し、説明する。

「あの時計、止まってるんだよ。」

 時計の方を見上げ、故障だろう、と言う。俺は即座に否定する。

「いや、あれさ、故障以外の原因で、止まっているんじゃないか?」

 何をいっているんだ?、と言いたげな顔をする。

「引きこもって、PCのやりすぎで、頭おかしくなったのか?」

 まぁ、確かにそう思われても仕方がないが、でも、それしか考えられない。

「よく見ろよ。あの時計が止まっている時間。」

 また、再び顔を上げて、確認する。

「13時45分がなんだ?」

 海音は時計を見ていなかったからか付かないだろう。

「その時間に家を出たんだよ。俺達は。」

 すると、笑い声を上げて見せる。

「じゃぁなにか、何かの物語みたいに、異世界や次元の狭間にでも迷い混んだって言うのか?」

 俺は頷き、説明する。

「頭がおかしいんじゃないかと、思うかもしれないけど、もし、そうなら色々と説明がつく。お前も、この公園に来てから、色々と疑問に思った事があるだろ?」

 そう言うと、それを認めた。

「まぁ、確かに違和感はあるよ。昔からこの公園で遊んでいたからな。休日のこの時間帯に人っ子一人もいないし、ゲートボールのご老人方もいないのは凄く、違和感を覚えるよ。でもよ、全部偶然だろ?考え過ぎだって。」

 でも、不安そうな顔をする。否定しきれない事でもあるようだ。俺の次の話で、それがより一層、強くなる。

「なら、時計と人がいないというのは、偶然だとしよう。ならなぜ、塀の上の道路を、行き交う車が一台も走ってないんだ?」

 それを聞いて、道路を見上げる。

 この道路は、渋滞はあまりしないが、見上げれば、必ず一台以上はこの道路を走っている。でも、ここに来てから、車は見ていない。

「おいおい。怖がらせるなよ」

 顔が引きつっている。

「俺も、偶然だと信じたい。でも、」

そこまで言った時、俺達の後ろ、遊具の方から、遮るように男とも女ともつかない声が割り込んでくる。

「そうですよ。偶然ではないですよ。」

 俺達は振り替えると、そこには声の通り、男とも女ともつかない容姿の人が立っていた。

 黒の革製のロングコートに、大きなツバのテンガロンハットを被り、表情は伺い知れない。黒のスカーフに黒の革パン、黒の革靴に黒の革の手袋。

全身黒尽めの奴だった。

俺達は持ってきた武器を袋から取りだし、構える。

 黒の人は、両手を上げて、無害だと説明する。

「君たちと戦いに来たんじゃありませんよ。」

 俺はあの画像が頭に過り沸々と怒りが、沸き上がる。

 槍を持つ手に力が入る。海音も同じようで、怒りに身を震わせている。

「ふざけるなよ!!あの画像はなんだよ!!」

 呑気な言いぐさで両手を下ろさずに続ける。

「まぁまぁ、落ち着いてください。」

 妙にイラっとする。それは海音も同じようで、怒鳴りつける。

「これが落ち着いていられるか!!お前何者だ?あの画像はなんなんだ!!」

 今にも、木刀で襲いかかりそうな勢いだ。それは俺も同じだった。臨戦体勢に入る。地面を足の裏で引きづり、地面感じを確かめる。

 久しぶりの槍は相変わらずだった。

「おい!。腕は落ちてないよな?」

 海音が横目で聞く。俺は頷く。

「当たり前だ。今まで、2ヵ月程度で落ちるような練習の仕方はしてない!!」

 俺達はもう、やる気満々だった。くっ、と、睨み付けたその時だ。

「待って!!」

 遊具の方から、女の子の声がした。その声は誰だかわかり、驚愕した。それだけに驚いているのではなく、この場にいるのがあり得ない。しかも、服装もさっきと全然違い、勇者モノの物語に出てきそうな布の服にマントを羽織っている。

「「沙良!!」」

 そう。沙良だった。紛れもなく、さっき家にいたはずの、自分の部屋に戻ったはずの沙良だ。しかも、よく見ると、大人っぽくなっていて、胸も身長も大きくなっている。

 俺達は互いに顔を見合せ、目を丸くする。

 黒の人をそっちのけで、大人っぽい沙良の方へと向かう。

「お前・・・沙良・・・だよな?」

 俺は恐る恐る聞いた。さらは、満面の笑みでそれに答えた。

「お兄ちゃんに海音さん。お久しぶりです。って、二人はさっきまで、中3の私と一緒でしたね。」

 苦笑いを浮かべて言う。俺達は「へ?」と、間抜けな声を上げる。

「中3って?どう言うことだ?と言うか、空見は?お前、大丈夫なのか?その格好は?」

 一気に聞かれた沙良は、戸惑う。

「そんなに一変に言われても答えられないよ。」

 そりゃ、そうかもしれないが、聞かずにはいられない。

 海音も同じようで、信じられないという顔をしている。今度は海音が言う。

「ならよ、一番簡単な質問だ。」

 沙良は海音の方を向き、返事をする。

「お前本当に沙良なのか?」

 そう言うと、少し難しい顔をする。

「そうなんだけど、説明するのが難しい。とりあえず言えるのは、私は、柏 沙良なんだけど、年齢が18才で今はお兄ちゃんたちよりも年上なんだけど・・・。」

 上手く言えないようだ。そこに、黒の人が見かねたのか、代わりに説明する。

「まぁ、彼女は未来から来たんだけど、君たちの未来よりも遥か先の未来なんだが、彼女は来年の夏に、遥か先の未来に行くから、正確には、彼女が天寿をまっとうする内の来年以降の未来の事はわからないから、未来人でもないし、果たして君らが生きていない未来を未来と呼んでいいのか、迷うのだが、これで理解出来そうかな?」

 全くもって意味がわからない。だらだら長い、未知のお話を聞いているようだ。それはまるで、専門家が、ド素人に専門用語を沢山織り混ぜて、説明しているかのような感じだ。

 そんな俺達の様子に、黒の人は困った様なもの言いをする。

「まぁ、理解できないよね。自分でも何を言ってるか、途中でわからなくなってしまうからね。」

 あはははは、と、ごまかす様に笑って見せる。

 まず、未来ってどう言うことだ?この大人っぽくなった沙良を見ると、18才なのは確かだ。聞きなれた声や仕草、何より南と同じ二重瞼にツインテールを見る限り、間違いない。南?

「あっ!」

 俺は声を上げ、槍を構える。それに、ビックリする三人。海音が木刀を肩に担いで、呑気に聞いてくる。

「どうしたんだ急に?」

 俺は大人っぽい沙良に、気をとられ、忘れていたが、画像の件を先にどうにかしなければいけない。

「あの画像はなんなんだって、話だ。」

 そう言うと、先程の俺同様、海音も声を上げ、木刀を構えた。

「そうだった。何かややこしくなっているが、それをまず聞かなきゃだな。」

 俺達の殺気ひあわあわする沙良。

「ロキさん!説明してなかったんですか!?」

 そう言うと、また、ごまかす様にあははは、と、笑い出す。

「いやね。この子ら、最初に会った時からこんな調子でね。沙良が来なかったら、八つ裂きにされてるところだったんだよ。」

 ばつが悪そうに言う。そんな、ロキと呼ばれた黒い人に沙良は、頬を膨らませ、抗議した。

「だから、先に行かないでって言ったのに!!もう、こんなにややこしくして!!」

 あの画像の事を沙良も知っているようだ。俺は矛先を沙良に向ける。

「お前も、何か知ってるんだな?教えろよ。あの画像はなんなんだ。」

 睨み付けると、沙良はため息混じりに俺たちに武器をしまうように、要求する。

 俺は海音に視線を送る。海音も同じく、俺に視線を送った。これだけで、大体の事は解る。ほぼ同時に、武器を下ろした。

 それを確認後、沙良が話を続ける。

「あの画像は本物よ。ただし、この世界のお兄ちゃんじゃないけどね。」

 まさか、この世界じゃないときた。この中二発言で、海音が木刀を地面に叩きつけて、威嚇する。俺の知っている沙良なら怯えるが、この沙良は違った。まるで、動じなかった。

「ふざけてるのか?それにその格好といい。いい加減にしろよ。」

 怒りを全面に出して、海音が言う。でも、沙良は相変わらずだった。

「ふざけていません。今はそう受け取ってしまうかもしれませんが、取り敢えず、最後まで話を聞いてください。」

 それに対して、また、怒鳴り付けようとする海音を俺は制止させる。なんだよ!!、と不機嫌に言う海音に俺は説得する。確かに、海音のように怒鳴ってた方が、怒りが紛れるが、それでは解決にならない。海音もわかっているが、あんなモノ見せられて、未来だの、この世界が云々なのと、言われれば誰でもそうなる。本音は俺もそうだ。でも、目の前にある現実の荒波はただ、眈々と流れに逆らうものを飲み込むのみだ。それは南の死によって、悟った。目の前にいる沙良は本物だ。だから、ここは、最後まで聞くことがいいのではないか?、その後、どうするか決めても遅くないんじゃないか、と思った。

「最後まで聞いてからでも遅くはないだろ?」

 そう言うと、引き下がってくれた。昔から、物分かりは良い方だ。

「お兄ちゃん、ありがとう。」

 笑みを作って言う。この笑顔を見ると、あぁ、沙良なんだな、と思った。

「説明するね。」

 そう言うと、ポケットから最近普及し始めた、スマートフォンというやつを取り出した。ラ・フランスの上の部分が少しかじられたような後があるロゴのマークのメーカーのモノだ。でも、見たことのない機種だった。まぁ、どうでもいい。先に進もう。沙良が画像を交えて説明するする。

「これは見ての通り、お兄ちゃんがお姉ちゃんを庇って、死んでいるところ。」

 悲しげに言いながら、続ける。

「先程、この世界じゃないと言いましたが、正確には違います。でも、分かりやすく言うなら、この世界じゃないが分かりやすいのですが、語弊が出てしまいそうですが、これていきます。」

 そう言うと、何かぶつぶつと、言い出した。正直、引いている。

「開け!アストラル・ドア!!」

 すると、何もない空間から、ピンク色のドアが現れた。突然の出来事に、言葉を無くした。海音も、目を丸くしながら、言葉がでないようだ。

 そんな俺たちに、申し訳なさそうに沙良が言う。

「行きなりすいません。驚きましたよね?」

 俺たちは、返す言葉が見つからなかった。そんな俺たちにお構い無く、話を続ける。

「これは、魔法みたいなものなんですが、まぁ、立ち話も何なんで、私のプライベートルームに行きましょう。それら全て含めて、お話をしましょう。」

 そう言うと、ドアを開けて俺たちを中へ促す。少し悩んだのち、俺たち二人は中へ入っていく。

 そこはメルヘンチックな場所だった。雲見たいな、白いふわふわとした柔らかい床。色とりどりの地球儀より少し大きめの球体が、道を作るように左右に沢山散らばっている。

 見たことのない、極彩色の小鳥や蝶がヒラヒラと舞っている。植物も見たことのないモノが沢山、咲いている。例えるなら、前に掲示板で見た、ヴォイニッチ手稿のような植物だった。

「こっちに家かあります。」

 指差した方向を見ると、グリム童話で見たような、お菓子の家見たいな家があった。

 その光景に俺たちは、ただ、ただ、驚愕するしかなかった。

 そんな間抜けな顔をした俺たちに、沙良が催促する。

「お兄ちゃん。海音さん。大丈夫ですか?」

 大丈夫な訳がない。

 もう、訳がわからなかった。頭のなかは、頓珍漢。

 何が起こっているんだ?ここは何処なんだ?そんな言葉が出てきてしまう。

「なんだよここは?」

 色々な事が急に起き、叫ぶことさえ諦めて、静かに呟く。

 海音はもう、完全に諦めているのか、あるいは言葉がでないのか、瞬きしながら、立ち尽くしている。

 また、沙良は困ったような顔をしている。

「これも、家の中で説明しますから、付いてきてください。」

 

 ふかふかのソファに腰を下ろし、沙良の話を聞いている。

 ここは、時の最果てだと言う。終わった宇宙だそうだ。お菓子の家も、さっきから頭上をふわふわ舞う、明るい色の球体も、よく分からないオブジェも、沙良の想像で造り出したものらしい。

 宇宙が終わると無限に広がる空間になるらしく、想像したものが、具現化するように念じれば出てくるそうだ。

 ただし、それを出来るのは、特殊能力を身に付けているものに限り、俺達にはまだ出来ないらしい。

 この空間は俺たちの宇宙と繋がり、一つになっているらしい。宇宙は終わると、今ある宇宙と一つになり、分かりやすく言うなら、裏側の世界になっているそうだ。宇宙の誕生と終わりに付いては、難しく、沙良自身もちゃんと理解出来ていないので、割愛された。

「じゃあ、次は本題にうつりますね。」

 頭の整理が追いつかないまま、画像の件の話にうつった。

「あれは、他の世界・・・と言うと、語弊が出るのですが、理解できるようにそういいます。で、その世界では、お兄ちゃんが画像の通り、死んでます。」

 俺たちはよく分からないまま、頷き、目を丸くする。それ以上の反応は出来なかった。もはや、俺の知っている現実と常識は違い、ぶっ飛び過ぎていて、感覚が麻痺している。

 更々と、説明していく。

「お姉ちゃんは塞ぎ込んでしまい、お兄ちゃん同様引きこもりになってしまいます。」

 そして、南が死んでしまう世界も知ってて、引きこもりの俺も知っている。そんな二人を見ていられなかった。で、行動に移したそうだ。俺に気を引いてもらうため、画像を用意した。

 事情を書いたメールに、画像を添付して、俺に送る手はずだった。

 タイミングを伺うため、特殊能力で監視していたそうだ。

 だが、ロキが、

「アタックチャーンス。」

 と、某司会者のモノマネをしながら、俺が見ている掲示板に画像を投稿したそうだ。

「あっあっあぁぁぁ!なにしてんですか!!って、顎が外れるんじないかと思うくらい口を開けて、ポコポコ叩かれましたよ。」

 と、声だけ真似て、ロキがそのときの様子を楽しげに語る。

 それに、咳払いをして、沙良が立ち上がった。

「とりあえず、今はここまでにしましょう。質問したいことがあると思いますので、まとめておいてください。私は紅茶でも、入れてきますね。」

 俺達を残し、入ってきたドアから廊下へと行ってしまった。

 それを見送りと、ロキも立ち上がり、俺達の方を向く。

「私は外の空気を吸ってきますので。それに、私が居ては話しにくいこともありましょう。」

 沙良同様、部屋を後にする。

 居なくなったのを気配だけで確認した海音が、叫び声を上げる。

「意味がわかんねぇ!!何なんだよ。この世界だの、宇宙だの、東が死んだだの、沙良ちゃんが巨乳美人になっているだの。」

 頭を抱えている。俺も同意だ。

「どうなっているんだ?俺もわからねぇ。質問って、殆ど、理解出来ていないのに、出来るわけないだろ!!」

 俺も頭を抱えて見せる。

 取り敢えず、お互いに理解できた部分だけ、抜粋する。

その1

 俺が死んだ世界があって、南も俺同様、引きこもりになった。

その2

 ここは、俺たちの世界の裏側的な世界。

その3

 あの画像は、俺が死んだ世界の死んだ瞬間を捕らえた画像だ。

その4

 南が死んだ世界の俺に、画像を見せるが、計画とは違った。

 こんな風になった。抜粋後、やはり、俺達は頭を抱えて下を向いた。

「なぁ、これってあれか?白昼夢か?」

 海音が、下を向いたまま言う。おそらく、ひどく混乱している顔つきだろう。

「俺もそうあってほしいが、どうやら現実のようだな。」

 二人して大きなため息をついた。

 取り敢えず、今理解できていることの中から、質問していく内容を模索することにした。だが、海音は半ば思考を放棄している様で、殆ど、俺が考えた内容となった。

 話終わるのとほぼ同時に、沙良とロキが、まるでわかっていたかのように、部屋に戻ってきた。

 お盆にティーセットを乗っけて、テーブルに置いた。ハーブの香りが、鼻孔を刺激する。花の香りだ。

「ローズヒップを、いれてみました。」

 そういいながら、カップに赤い液体を注いでいく。

 香りを楽しみながら、ロキと沙良がカップの中身を口にする。

 そんな優雅な、二人を尻目に俺が、質問をぶつけていく。

「まず、俺達に接触した目的はなんだ?」

 多分、これが一番核心的だろう。

 沙良は少し驚いて見せる。

「いきなり、その質問ですか?以外です。」

 そう言うと、カップを下ろして、話始めた。

「単刀直入に言いますと、お兄ちゃんが死んだ世界と、お姉ちゃんが死んだ世界を繋げて一つにして、都合よく辻褄を合わせて、幸せになってもらおうかと。」

 あぁ、また、訳の分からないことを言う。それを考えると話は進まない。

「今、生きている南は何している?」

 その質問に少し困ったような顔をする。どう説明していいのか分からないのだろう。

「お姉ちゃんは今、ここにいるんだけど、ここにいない?でいいのかな?」 

そう言うと、ロキに同意を求めるように、視線を送った。

「それで正しいんだけど、それだとまた、二人が混乱してしまうね。まぁ、どう説明しても、混乱するだろうけど。」

 相変わらず、呑気な口調で言う。

「ですよね~。」

 沙良が同意する。全く意味が分からない。

「ここにいるのは確かなんだな?」

 俺が、更に言うと、相変わらず、困ったような顔をしながら、曖昧に頷いた。色々と放棄した海音が、投げやりに言う。

「なら、今すぐ、ここにつれてこいよ。」

 沙良は少し唸る。

「連れてくると言うより、二人を連れていく、なんだけど、もういいか。」

 カップを手に一口ふくむ。

「質問は終わりです。まず、お兄ちゃんに聞きたい。」

 何か勝手に終わらされたが、まぁいい。俺は頷いた。

「お姉ちゃんに会いたい?」

 少し考えた。俺が、死んだ世界の南は果たして俺の世界にいた南なのだろうか?

 それは違うだろう。でも、南である。

「性格は同じか?」

 俺が訪ねると、真剣な目をする。

「それはお兄ちゃんが見て、接して、感じる事。私個人の見方になりますが、お姉ちゃんはお姉ちゃんですし、お兄ちゃんはお兄ちゃんです。」

「今の俺もか?」

 自信を持って頷いて見せた。

「今目の前に大切な人がいると言うことが、何よりも救いになります。また、会えるということは、次回への希望になります。それが、生る糧になるんです。」

 なにか、感じる物がある。

 沙良は立ち上がり、俺たち二人を見下ろす。目はとても真剣だ。 

「これから二人を連れて、お姉ちゃんの元へ行きます。着いてきてください。」

 俺達は互いに顔を見合わせ、立ち上がった。

 沙良はドアを開け、廊下に出る。その後を俺達はついていった。

 廊下を曲がり少しいくと、沙良はしゃがんだ。掌を地面に付き、何やらブヅブツと唱える。すると床に四角い魔法陣の様なものが浮かび上がり、掌を離すと床下貯蔵庫のように床が四角い形のまま、開いた。

 そこには階段があった。

「この下にドアがあります。そのドアを開けたら、そこにお姉ちゃんがいます。ただし、」

 少し険しい顔付きになる。

「そこに入ったら後戻りはできません。ここまで来て言うのも何ですが、引き返すなら今です。」

 どう言うことだか分からないが、取り敢えず、ここには戻れないのだろう。

「俺は南に会いたい。でも、」

 海音の方を向くと、掌にまた、拳を打ち付ける。

「はっきり言って、意味がわからねぇが、親友おいて俺は帰りますってのもいかねぇな。着いていくぜ。」

 俺は頷くと、沙良が中を指差す。

「中に入れば、奥にドアがあります。それを開いて、入ってください。」

 二人で頷き、中へ入っていく。でも、沙良は、中に入ろうとしない。

「お前は来ないのか?」

 沙良は、少し清々しそうな表情をした。

「私の最後の仕事なので、それが達成出来ました。私は私の帰るべきところに行きます。」

 不安げな表情になる。

「この先大変かもしれませんが、後武運を。」

 そう言うと、床蓋がしまった。少し焦ったが、もう、後戻りはできない。俺達は階段を降りていった。

 中は真っ暗なのだが、不思議なことに、階段だけはよく見えた。五分位かして、ドアの前にたどり着いた。

「いよいよだな。」

 海音が、優しげにいう。

 俺は頷き、ドアに手を掛けた。

 あいつが死んでふた月だ。引きこもっても、ふた月。何か急展開で意味が分からないが、でも、それでも、南に会いたい。

 あぁ、俺はこんなにも、南の事をオモッテいたんだな。

 色々とオモイ、ドアを開ける。

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