【オープン・クエスチョン】尋問にならない会話のキャッチボール 4/4
技術交流会がお開きになる頃。
アリサとルーグは、すっかり打ち解けた様子で酒場の出口に立っていた。
「今日は本当にありがとうございました、アリサさん。自分の魔道具の話をあんなに熱心に聞いてくれた人は、初めてでした」
「私の方こそ、とても勉強になりました! 螺旋状の送風回路のお話、王都に帰ったらすぐに上の者にも共有しておきますね」
「はい! ……あの、専属契約の詳しいお話、近いうちにぜひギルドで聞かせてください」
ルーグは、最初に出会った時の怯えた小動物のような姿とは別人のような、自信に満ちた明るい笑顔で頭を下げた。
「はいっ! お待ちしております!」
大きく手を振ってルーグを見送ったアリサの背中に、ポンと優しく手が置かれた。
「見事だったわ、アリサ」
いつの間にか隣に立っていたシレーヌが、満足げに微笑んでいた。
「相手の心に土足で踏み込むのではなく、相手から心の扉を開かせる。……尋問官から、『良き理解者』へと昇格できたようね」
「シレーヌ先輩! はい、私、今日すごく実感しました。自分が喋るよりも、相手に気持ちよく喋ってもらう方が、何倍も深い信頼関係を築けるんですね!」
「その通り。人は誰しも『自分の話を聞いてほしい、理解してほしい』という強烈な欲求を持っているの。それを満たしてあげる【聞き上手】こそが、人脈作りにおける最強の魔法使いよ」
シレーヌの言葉に、アリサは深く頷いた。
勢いで押し切る『エレベーターピッチ』で最初のきっかけを作り、相手の言葉を引き出す『オープン・クエスチョン』で信頼関係を深める。
この二つの魔法が組み合わさった今、アリサのコミュニケーション能力は飛躍的に進化を遂げていた。
帰りの乗合馬車の中。
心地よい揺れに身を任せながら、アリサはランタンの灯りの下でバインダーを開き、今日の学びを銀色の羽ペンでしっかりと書き留めた。
【私のためのお仕事魔導書】
新シリーズ第2の魔法:オープン・クエスチョンと傾聴(オウム返し)
「はい/いいえ」で終わる質問の連打は、ただの「尋問」!
会話を弾ませ、相手と仲良くなるためには、相手に自由な言葉で語らせるべし!
【会話のキャッチボールを無限に続けるコツ】
オープン・クエスチョンで深掘りする
「どうやって?」「なぜ?」「どんな?」を頭につけて質問する。
例:「魔道具作りは楽しいですか?(×)」→「どんな魔道具を作っている時が一番楽しいですか?(〇)」
バックトラッキング(オウム返し)で共感を示す
相手の言葉の語尾やキーワードをそのまま繰り返すことで、「ちゃんと聞いていますよ」というサインを送る。
主役は相手(自分が喋るな!)
会話の割合は「相手が8割、自分が2割」。相手を気持ちよく喋らせた者が、最も強い信頼を勝ち取る!
「ふふっ、完璧!」
アリサはパタンとバインダーを閉じ、窓の外の流れる夜景を見つめた。
交流会が苦手で壁の花になっていた一週間前の自分が、なんだか遠い昔のことのように思える。
「次は第三の魔法ね。……人脈の広げ方にも、まだまだ奥深い法則があるのよ」
向かいの席で目を閉じていたシレーヌが、静かに呟いた。
「はいっ! どんな魔法でも、どんとこいです!」
無敵の勢いに「傾聴」という盾を手に入れた筆頭受付嬢は、満面の笑みで力強く頷いた。
彼女のバインダーが王都の有力者たちの名刺でパンパンになる日は、そう遠くないかもしれない。
新シリーズ第2話「オープン・クエスチョン編」、最後までお読みいただきありがとうございました!
「初対面の人と会話が続かない」「質問しても一言で終わってしまう」という悩みは、多くの方が経験したことがあると思います。その原因の多くは、無意識のうちに「クローズド・クエスチョン(はい/いいえで答えられる質問)」ばかりを投げてしまっていることにあります。
「どうして?」「どんな風に?」と疑問詞を変え、相手の言葉をそのままオウム返し(バックトラッキング)するだけで、驚くほど会話はスムーズに回り始めます。
明日から職場の雑談や、初めて会う人との会話で、ぜひ「聞き上手」になる魔法を試してみてくださいね!
さて、次回の第3話は【ウィークタイズ(弱いつながり)の強さ】の魔法です。
仲良しグループで固まって飲んでいても、新しいチャンスは生まれません。アリサが、いつも群れている冒険者たちを「全くの異業種の輪」に放り込み、思いがけない大チャンスを掴むエピソードをお届けします!
次回もどうぞお楽しみに!




