裏切り
洞窟内は暗闇と静寂に包まれていた。
濡れた岩を叩く足音と、二人の人間の息づかいだけが延々と続いていく。
はっきりと視認できる距離は、炎によって照らされた限られた範囲のみ。僅か数メートル程しかない。
そんな中を、エリックとミナは神経を研ぎ澄ませながら進んでいた。
「ミナ、何か気づいた事はあるかな?」
異常があれば直ぐに知らせている。そんな事はエリックにも分かっているが、何か言葉を発しないと精神が参ってしまいそうだった。
「ううん、残念ながら。嫌な気配を感じるのは確かなんだけど……生憎大き過ぎるからね」
気導師達は黒の結晶の気配を感じ取る事ができるが、その正確な位置までは特定できない。
そもそもの話、それが本当に黒の結晶なのかどうか、それすらも把握できていないのだ。似た気配を持つ別物である可能性も十分にある。
散々探し回った挙句、結局黒の結晶はそこにはありませんでした。なんて事例も珍しくはない。
「……」
エリックの顔に、次第に曇りがかかり始めた。
焦りが出始めたのだ。このまま見つからないんじゃないだろうか、もしかしたらもう誰かが見つけてしまったんじゃないだろうか……
振り払っても振り払っても、そんなマイナスのイメージばかりが頭をよぎる。
「大丈夫だよエリック」
背後から降りかかってきた言葉で、エリックはふと我に帰った。
「きっと見つかるよ!絶対に私達で回収しよう!」
エリックは立ち止まり、ミナの顔を見つめた。
その顔は……溢れんばかりのその笑顔は、エリックにはとても眩しく見えた。
「私はエリックに抜けて欲しくないよ。だから、頑張ろう!」
えいえいおー!と、大げさな手振りを交えてエリックを励ますミナ。
愛おしさからか、そんな彼女の姿を見て、エリックの口元から自然と笑みが零れ出た。
彼女の言葉に根拠なんてものはない。ただの気休めだ。だがそれでも、エリックにとっては彼女の存在が救いになっていた。
彼女がいなければ、とっくに折れてしまっていたかもしれない。
「ありがとう」
心の底から出た言葉だ。
火照った頬に冷えた手を押し当てながら、エリックは再び正面へと向き直した。
「――エリック」
ミナの声色が一変した。
その場で足を止めて、警戒心を露わにした険しい顔つきで前方を睨みつけている。
エリックもまた、彼女と同じ顔をしていた。
空気がのしかかってくるように、重くまとわりつてくる。
体が進む事を拒絶しているかのようだ。明らかに先程までとは違う雰囲気である。
一歩、また一歩と、ゆっくりとだが、二人は歩みを続ける。
音が聞こえてきた。何かが、それも巨大なものが蠢いているような不気味な音だ。異臭もする。
二人は全身に闘気を纏った。
この暗闇の中は敵の土俵だ。音だけで位置を探っている二人に対して、相手は既にこちらを捕捉しているかもしれない。
いつ戦いになってもおかしくない状況だ。
――そしてその時はやってきた。
「ミナ!」
エリックが叫んだ瞬間、両者は左右に飛び退いた。
粘性のある黒い液体が地面に降りかかる。その正体は不明だが、毒が含まれている可能性もあるため、迂闊に触れることはない。
「オル・ブレア!」
ミナが広範囲に炎を発する気言を唱えた。
敵への牽制と同時に、光源を確保する為の行動だ。
炎の光によって視界は一気に広がっていく。
いつのまにか二人は開けた場所に出ていたようだ。そしてその空間の真ん中で、そいつは姿を現した。
「なっ……」
その姿は異形と言う他ない。少なくともその姿は、二人が知るどの生物にも当てはまらなかった。
暗闇に適応して退化したのだろうか、顔には目がついていない。耳まで裂けた大きな口からは無数の歯が顔を覗かしている。
その長いフォルムからは蛇を連想させるが、表面には蛇のような鱗はない。代わりにブヨブヨとした伸縮性の高い皮膚で全身が覆われている。おまけに短いが、足のようなものが八本生えていた。
怪物は炎の熱で苦しそうに呻き声をあげているが、火傷などの外傷は特に見られない。
闘気は人間だけでなく、あらゆる生物に宿っている。この怪物も闘気を纏っているのだ。
「シルド!」
怪物が動いた。それと同時にミナが気言を唱え、両者の間に透明な盾が出現する。
怪物は大口を開けてミナに襲いかかるが、その盾によって進行が遮られる。
気言で作られた盾に悪戦苦闘する怪物を尻目に、ミナは怪物の側面へと回り込んだ。そして別の気言を唱えた。
「シレル!」
細く鋭い閃光が怪物を貫く。次の瞬間、怪物の身体からドス黒い血が噴き出した。
斬撃の気言だ。ミナの放った一撃は怪物の纏う闘気を貫き、その肉を引き裂いた。
気言とは気導師にとって基礎の技だ。種類にもよるが、闘気を扱える者なら基本的に誰でも使うことができる。
しかし当然ながら、物事には向き不向きというものが存在する。同じ気言を使用しても、使い手によってその効力は大きく違いが現れるだろう。
ミナの闘気の性質は決して戦闘向きではない。
そんな彼女がアランに次ぐ実力を持つに至ったのは、彼女が気言の達人であるためだ。
闘気の性質に恵まれなくとも強くなれる。ミナの存在がそれを証明していた。
これはエリックにとっても、喜ばしい事実なのかもしれない。
――しかし残念ながら、エリックには気言の才能もなかった。
怪物は肉を裂かれた痛みでもがき苦しんでいた。
しかし倒れない。それどころかみるみるうちに傷は癒えていき、立ち所に塞がってしまう。
「凄い再生力!どうやって倒せば……」
「あの辺り、あそこにもう一度今のをやってくれないか?」
怪物の頭から二メートル離れた位置、エリックはそこを指さした。
ミナもその意味を瞬時に理解する。エリックが指し示した場所、そこから禍々しい闘気を感じとったからだ。
「シレル!」
斬撃の気言が、再び怪物の体を切り裂いた。
皮膚が裂かれ内部の肉が露出する。その中に黒い石が埋め込まれているのを二人は確認した。
間違いない。あれこそが黒の結晶だ。
活性化しているため、膨大な量のドス黒い闘気が溢れ出ている
「やっぱり……!」
忌々しくあるが、今は最も欲していた代物だ。
エリックの顔は、怒りとも喜びとも呼べない感情に支配されていた。
「俺があいつの体から黒の結晶を引き剥がす!ミナはそれができ次第、特大の気言でとどめを刺してくれ!」
「引き剥がすって、あそこから!? 大丈夫なの!?」
「やってみせるさ!」
闘気の性質にも恵まれていない。かと言ってミナのように気言の達人という訳でもない。
そんなエリックにできるのは、ただがむしゃらに行動する事だけだ。必死に、身体を張ってでも。
エリックは怪物を見据え、刃渡30センチ程の短剣を引き抜いた。
武器を使用する気導師は珍しい。中にはそれを恥と考える気導師もいる。
闘気を纏える彼らにとって、己の肉体こそが武器であり鎧でもあるからだ。
だがエリックにはどうしようもなく才能がない。
攻撃手段が乏しい彼が少しでも戦闘能力を上げる為には、武器に頼らざるを得ない。
エリックは武器を構えたまま駆け出した。
やるなら速攻だ。ミナがつけた傷が治りきらない内に、黒の結晶を抉り取る。
「がはっ!」
しかし当然怪物は抵抗する。その巨体に物を言わせて、迫り来るエリックを弾き飛ばした。
エリックの体が壁に叩きつけられる。
闘気を纏っていなければ骨が粉砕されていただろう。そう思わされる程の衝撃だ。
エリックは瞬時に立ち上がった。
……痛みはあるが、身体の動きに支障はない。そう確認しながらも、相手の動きを探る。
怪物はミナを警戒しつつ、頭はエリックの方へと向けていた。
既に傷は8割方治癒している。真正面から馬鹿正直に突っ込んでも、また壁に叩きつけられるだけだろう。それだけならまだいいが、あの鋭い牙で身体を抉られれば一巻の終わりだ。
エリックは再び駆け出した。
怪物は尾をムチのようにしならせそれを迎え撃つ。
「ヒヒュル!」
風を起こす気言を唱えると同時に、エリックはジャンプした。
怪物の尾がエリックの足元で空を切る。
エリックの未熟な気言でも、体を押し上げ、勢いを助長させる程度の事はできるはずだ。そしてその狙いは見事に成功した。
エリックは攻撃をかわしつつ、その勢いのままに怪物の懐に突っ込んだ。
黒の結晶は怪物の肉で隠れて見えないが、滲み出る闘気でだいたいの位置は推測できる。その場所へと剣を突き刺した。
「くっ……!」
刃が通らない。怪物の纏う闘気と、そのブヨブヨな皮膚が衝撃を緩和しているのだろう。
ならばとエリックは拳を握り締め、それを剣の柄頭に叩き込んだ。
釘打ちの要領だ。一発で駄目なら二発、二発で駄目なら三発、何度も何度も殴り続ける。
「うわっ!」
怪物もただ黙ってやられる訳にはいかない。振り払おうと全身全霊で暴れに暴れた。
あまりの激しい抵抗に、エリックも堪らず距離をとった。だが剣は刺さったままだ、エリックは再度特攻を仕掛ける。
しかしエリックの追撃よりも早く、怪物は反撃に出た。
出会い頭に放たれたあの黒い粘液。それを口から吐き出したのだ。
回避が間に合わず、エリックの足に粘液が降りかかる。
「シルド!」
怪物がエリックを噛み砕こうとするが、ミナの気言によって阻まれた。
「エリック足は!?」
「大丈夫だ!問題ない!」
粘液が付着した岩をよく見ると、その表面が少し溶けているのが分かった。どうやらこの黒い粘液には酸が含まれているらしい。
もし闘気を纏わず直にこの粘液に触れていたら、皮膚が酸によって焼き爛れていただろう。
しかし逆に言えば、闘気を纏ってさえいれば簡単に防げる程度の脅威でしかない。
エリックはさほど問題とはしなかった。
そしてその油断が命取りとなる。
怪物は怒りのままに盾を破壊し、再度エリックに襲いかかった。
エリックはそれを避けようとするが、そこでようやく自分の身に起きた異常に気がつく。
(足が動かない!?)
怪物の吐き出した粘液によって、足と地面が接着されていたのだ。
身動きのとれないエリックに、怪物が大口を開けて襲いかかる。
「ぐっ、うっ……!」
エリックの顔が苦痛に染まった。怪物がエリックの右半身に噛み付いたからだ。
怪物の牙はガリガリと音を立てながら、エリックの闘気を突き破って肩や腹に食い込む。
エリックの体から血が滲み出す。少しでも気を抜けば、そのまま食いちぎられてしまいそうだ。
「うあああああああ!!!」
エリックは叫んだ。叫べば多少は痛みも飛び、体に力も入る。
崩れ落ちそうになる足で踏ん張りながら、エリックは必死に耐える。
ここで退く訳にはいかない。退けば死だ。
エリックは奥歯を噛み締め、深く息を吸い込んだ。
――そして唱えた、逆転の気言を。
「トォォォラァァァァァァ!!!」
瞬間、怪物が雷に打たれたように硬直した。いや、比喩ではなく実際に雷に打たれたのだ。
雷撃の気言。本来ならば真正面から撃ったとしても、エリックの力量では怪物の闘気に防がれて効果はなかっただろう。
しかし彼の右腕は怪物の口の中にある。体内へ直に電撃を流し込む事ができた。
エリックは左手で無理矢理怪物の口をこじ開け、右半身を引き抜いて脱出した。
そしてそのまま靴を脱ぎ捨て、一直線で怪物に刺さっている短剣を手に取った。
怪物が痺れて動けない内に、決着をつけるために。
残る全ての気力を剣に込める。
刃は既に刺さっている。後は引き抜くだけだ。
(見えた!)
肉が引き裂かれ、再び黒の結晶が露出する。
黒の結晶の影響は生物を凶暴化させるだけではなく、より深刻化すればその肉体までも変異させてしまう。
この怪物が異形と化したのも、黒の結晶から漏れ出た闘気を浴び続けただめだ。
体の中に埋め込まれているのだから、尚更強く影響を受けているだろう。
おそらくこの異常な再生能力も黒の結晶によってもたらされたものだ。ならば元凶を引き剥がせば倒せる筈。
少なくともエリックとミナはそう推測していた。
「取ったぞ!ミナ!」
エリックは露出した黒の結晶を掴み、強引に引き抜いた。
彼の役目は終わった。とどめはミナだ。
「分かったわエリック!ちょっと伏せてて!」
ミナが力強くそう呼びかけに応えた。
今まで溜め続けていた気力が、ようやくここで発露される。
「ウル・シレル!」
エリックの頭上を風が吹き抜ける。
その数秒後、怪物の頭がぼとりと転がり落ちた。
怪物の頭が激しく地面をのたうち回る。しかし再生はしない。その断面からは何の変化も見られない。
怪物の首はしばらくもがいていたが、やがて徐々に力を失っていき、ついにはぴくりとも動かなくなった。
怪物は絶命したのだ。
「……終わった」
緊張が解け、疲労がどっと押し寄せる。エリックは脱力感に身を任せ、そのまま地面に座り込んだ。
疲れ果て、全身が痛む。体は限界を迎えつつあるが、心は不思議と満たされている。
やり遂げたからだろう。目的である黒の結晶を手に入れたからだ。
これでまだ続けられる。アランの隣に並び立つ事ができる。その喜びが、エリックの心を晴れやかにさせてた。
「やったねエリック」
ミナが溢れんばかりの笑みを浮かべて、エリックに手を差し出した。
エリックもまた、微笑みながらその手を取った。
「黒の結晶は?」
「ここにある。ちゃんと持ってるよ」
エリックは改めて黒の結晶をまじまじと観察した。その感想は奇妙の一言に尽きる。
実物を目にするのは初めてだ。それなのに、一方でどこか慣れ親しんだものを見るかのような感情を抱いている
活性状態の黒の結晶は心身共に有害でしかないというのにだ。
直に触れ続けるのは危険な為、エリックは特殊な材質で作られた小箱の中へと黒の結晶を仕舞い込んだ。
これは2人で掴んだ勝利だ。
黒の結晶は他にも複数個存在する。たった今回収したのはその内のほんの一つに過ぎない。エリックの夢の実現には小さすぎる一歩だ。
だがこれは間違いなく偉業と呼べるだろう。
それだけの事を成し遂げたのだ。
「――これでまだ、ここにいられるな」
「そうだね、残念だけど……」
あまりにも自然で、変わらぬ様子でそう言った為、エリックはその言葉の違和感に瞬時に気づく事ができなかった。
さっきまで共に戦ってくれていた筈が、エリックの追放に唯一反対してくれた筈の彼女が、何故「残念」などという言葉を付け足したのか……
その真意を尋ねようするが、その時には既に手遅れだった。
「え……?」
エリックの胸が引き裂かれ、血が洪水のように溢れ出す。
彼女ははっきりと唱えていた。怪物を攻撃したものと同じ斬撃の気言を、仲間であるはずのエリックに。
エリックは訳が分からないといった顔で、呆然としたまま地面に倒れ伏していた。
「なんで……?」
「あなたが悪いのよエリック、分不相応にもこれを手に入れてしまうんだもの」
ミナは足元に転がっている黒の結晶が入った箱を拾い上げ、エリックを見下しそう言った。
「体よく追い出す口実だったのに、まさか本当に見つけ出しちゃうなんてね。ほんと、ついてないわ」
「それは……どういう……」
「どういう意味って、そのままの意味に決まってるじゃない。最初からあなたに居座らせるつもりなんてなかったの」
エリックは呆気に取られていた。
確かに彼は疎まれていた。だが彼女だけはエリックの味方をしてくれていた筈だ。
「何その顔。まさか私が、本気であなたなんかを庇い続けると思っていたの?」
ミナはしゃがみ込み、エリックに顔を近づけた。その目には明らかに侮蔑の意が込められていた。
「あんなのは世間体を取り繕う為にやってただけ、つまりただの演技よ。
アランには救世主の末裔という立場がある。だからあなたのような無能でも、邪険に扱うわけにはいかないの。
その点で言えばあの二人も思慮が足りないわね、何度も注意してるというのに……知能に欠陥でもあるのかしら」
エリックは耳を疑った。彼が知る限り、ミナ・カーテナルという人物は清く心優しい少女だった。
彼女がこのように他者を愚弄する姿など、一度も見たことがない。
これが彼女の本性だというのだろうか。
その姿を目にしても尚、エリックには目の前で起きている事が信じられなかった。
「だから残念だけど、あなたにはここで死んでもらう事にしたの」
「そんな事許されるわけが……」
「大丈夫よ、ここは危険な生物が蔓延る暗い洞窟の中、私達以外には誰もいない。
仮にここで人が1人いなくなったとしても、事故死として簡単に処理できる」
信じたくはなかった。
これはタチの悪い冗談か何かで、すぐに元の優しいミナに戻ってくれるのではないかと、心の底ではそう思っていた。
というより、そう思いたかったのだろう。
だが違った。彼女は本気でエリックを殺すつもりだ。
「ーーアランは、これを承知なのか?」
様々な感情が頭の中で入り乱れる中、やっとの思いで絞り出した言葉がそれだった。
それだけは、どうかそれだけは間違いであってくれ。そう縋り付くような目で、エリックはミナを見上げていた。
彼だけはそうあってはならないのだ。
利己的な目的で人を裏切り、陥れ、切り捨てるなど、アラン・フルーガーという人物にはあってはならない。
しかしミナの返答は、エリックの淡い希望を打ち砕くには十分なものだった。
「アランは知っているのかって? 勿論よ。だってこれは、アランの指示でやった事だもの」
そう語ったミナの顔は、エリックがこれまで見て来た中のどれよりも醜悪で、意地の悪い笑顔だった。
「特別な人間と一緒にいただけで、自分も特別な人間になったとでも勘違いしたのかしら? 身の程を弁えなさい、あなたのような無価値で矮小な人間に、私達が関心を寄せる訳ないじゃない」
饒舌に語るミナはエリックを足蹴にし、彼の頭をこれ見よがしに踏み躙った。
エリックは何の反応も起こさなかった。
もはや痛みなど感じないのだろう。まるでそこの見えない奈落へと落ち続けているような……心臓を紐で締め付けられているような……
――ともかく、最悪の気分だった。
「ずっと消えて欲しかったわ。あなたの正義感に溢れた顔を見るだけで、反吐が出そうだった。これでようやく清々する。早く帰って、アランとこの喜びを共有しよっと!」
ミナはまるで汚物の付いた靴を拭うかのように、地面に靴底を擦り付けながら、エリックから背を向けた。
「バイバイ、エリック。これでもう、2度と会うことはないわね」
彼女の足音と、機嫌良く口すさむ鼻歌が遠ざかっていく。
同時に灯りが消え、辺り一体が完全な闇に閉ざされる。
エリックは、立ち上がる事ができなかった。




