1章 エピローグ
これで一章は終わりです。
二章は三日ほど経ってから更新させて貰います。
見逃さないようにブックマークしていただけると刻芦が喜びます。
ショッピングモールから帰ってきた庵は、庭で夜鷹と対峙していた。今の自分がどこまで通用するのか、夜鷹に頼み込んで手合わせしてもらったからだ。
「いつでもいい。庵の好きなタイミングで打ち込んでこい」
好きなタイミングとは言われるものの、庵は竹刀を構えたまま動けずにいた。対する夜鷹は肩に竹刀を担いでいるだけ。それなのに全く隙が見当たらなかった。
だがこのままでは埒があかない。意を決した庵は三歩進んで距離を詰めると、手始めに真っ直ぐ夜鷹に竹刀を振り下ろす。
「うん。前より速さも力も上がっているな。向こうで強者と見えたか」
その振り下ろしを夜鷹は竹刀先端で受け止めた。まるで振り下ろす位置が見えていたような超絶技巧に、庵は内心舌を巻いた。
「凄い。あの庵様の振り下ろしをあんなにも容易く」
「それだけじゃないわね。庵さんの竹刀を夜鷹様は一歩も動かずに対処していたわ」
戦いを見届ける雪と桜も、夜鷹の技量に目を見開いて驚いている。
「さすが爺ちゃん。勝てるなんて驕ってはいないけど、まさかそんな止め方をされるなんて思わなかった。向こうでは雪のお父さんと戦ったかな。黒鬼と呼ばれるような強い人だよ。それに初めて人を殺めた」
ただ止められるだろうと思っていた庵は、動揺することなくすぐに竹刀をなぞるように動かすと、次は胴を狙うように横に薙ぐ。
「そうか。それで戻った時に一皮剥けたような顔をしておった訳か。ただ儂が向こうで何年戦ったと思ってるんだ。これくらい朝飯前よ」
それを夜鷹は易々と受け止めて弾くと、隙ができた庵の手目掛けて竹刀を振るった。しかしそれは庵が自ら作った隙だ。踊るように一回体を反転させてかわすと、そのまま夜鷹の懐に入り込む。
「だよね。なんたって刀神様だもんね」
「……その名を聞いたのか。恥ずかしいのう。若気の至りというやつじゃな」
夜鷹は過去を思い出して身悶えしそうになる。向こうにはまだ自分の逸話が沢山残っているのだろう。それを庵がこれから知るとなると、背中がむず痒くてたまらなくなるのだ。
「これならどう?」
「ほう、武神の技か」
悔しいが竹刀だけの技量では到底敵いそうにない。そう判断した庵は足払いで夜鷹の体勢を崩すことを試みた。
「ちょっと爺ちゃん。地面に根でも張ってるの?」
庵が放った足払いを夜鷹は避けることなく受け止めた。武神の魂と繋がったことで覚えた足払いは、ずっしりと地に足つけた夜鷹を動かすことすら叶わない。
「はっはっは。そうじゃな。儂は根っこから水分を摂って暮らしておるかもしれぬな。どれ。今度はこちらからいかせてもらおうか」
ここにきて初めて夜鷹が動いた。二歩下がって武術の距離から剣術の距離まで離すと、庵の持つ竹刀を下から切り上げた。
「ぐっ!おっもい!」
人体の構造上、振り下ろしに比べて切り上げは力が入りにくいはず。それなのに夜鷹の一撃で庵は竹刀を弾き飛ばされそうになる。ぎりぎりで踏みとどまったものの、手はビリビリと痺れていた。
「ただの切り上げでこの威力って反則だよ」
一度距離を取るように離れた庵は、痺れを取るように手を振りながら、そう文句を口にする。
「そりゃ悪いことをしたな。一度反則を貰ったなら二度貰っても同じということで。昔のように儂のとっておきをみせてやる」
夜鷹の雰囲気が変わって居合いのように竹刀を構えた。力を溜めるように体勢をグッと低くすると、一歩大きく踏み出して竹刀を振り切った。
「ええ……?そんなのあり?」
まだ攻撃が届くには距離があったはず。それなのに庵が持っていた竹刀は真ん中でへし折れて地面に突き刺さった。
「儂の勝ちじゃな。老いたとはいえ、まだまだ庵には負けんぞ」
こうして二人の手合わせは夜鷹の勝ちで終わった。庵はせめて一当てできるように強くなろうと、これからも精進することを決める。
「スイカ切ったわよー!」
梓の一言で四人は縁側へと向かった。庵は皿に並べられたスイカを取って一口食べる。手合わせで火照った体にスイカの水分が染み渡るようで美味い。
「二人も食べなさい」
「これは果実ですか?大きくて随分と真っ赤なんですね。いただきます」
雪がしゃくりとスイカを小さく齧る。その馴染みのない食感に目をまん丸にした雪だったが、すぐに笑顔になった。
「凄い甘いです!それにとっても瑞々しくて、暑い時期に最適ですね!」
隣で食べた桜も驚いたような表情をしている。どうやらスイカは戦国時代にはまだ存在していないようだ。
「この時代は美味しいもので溢れているんですね。父上や兄上にも食べさせてあげたいです」
「あら?まだこんなにもあるし持っていく?」
「良いんですかお婆様!?」
特大サイズを丸々一個切り分けたスイカは、六人で食べてもまだまだ余っていた。残ったスイカをお土産に持って行かせようと台所へ向かう梓に二人も着いていく。
「さっき人を殺めたと言っていたな。やはり後悔しているか?」
「後悔か。うん、後悔はしてると思う。やっぱりどんな理由があっても人を殺したのは心に重く残るね。でもあそこはそんな綺麗事を言ってられないことも分かった。生き残りたければ人を殺める覚悟も必要だ」
「このままこっちに残ってもいいんだぞ」
「殺めた直後ならそうしていたかもしれない。でも雪と出会って石動家に仕えることになったんだ。もう少し向こうで頑張ってみるよ」
「そうか」
夜鷹は昔を思い出すように空を見上げる。その姿になにを考えてるかを庵は知ることは出来ないが、刀神とまで言われたのなら、それまでに様々なことがあったのだろう。
「いずれ機会があったら暁の地へ行ってみろ」
「え?暁って確か爺ちゃんが昔いた国だっけ?」
「ああ。まだあるかはわからないが、暁には儂が建てた道場がある。そこに行けば儂の弟子がいるかもしれない。鍛錬に行き詰まったら向かうのも一つの手だ」
「覚えておくよ。今は石動家で武功を立てなきゃいけないから無理だろうけどね」
「そうだな。それが一番大事だ。なんせひ孫を沢山見せてもらうって梓が張り切ってるんだからな」
「頑張ってみるよ。また戻ってきたら手合わせよろしくね」
残ったスイカを庵は食べる。この先どんな運命が待ち受けてるかは分からないが、またこうして戻ってきてスイカを食べよう。雪と桜を連れて。
「庵様見てください!お婆様からこんなに頂きました!」
戻ってきた雪が手に持つビニール袋には、サランラップで覆われた半分残ったスイカが入っていた。
「食べかけなのは申し訳ないけど、雷堂様達にも食べてもらおう」
「はい!父上も兄上もきっと驚くと思います!それに庵様が買ってくれたお布団にも!」
「庵さん。本当にありがとうございます」
「喜んで貰えたなら何よりだよ。二人の帰りが遅いと心配させてしまうし、そろそろ向こうに戻ろうか」
服を着物へと着替えた三人は庭へ出る。たださすがに布団五セットは一度では運びきれそうになかった。なのでとりあえず一人一セットと他に買った物を向こうに持っていって、その後に庵が戻って残りの荷物を持ち込むことにする。
「お爺様!お婆様!また会いに来ますね!」
「雪ちゃんなら大歓迎よ!桜ちゃんも次も必ず遊びに来てね!」
「はい。梓様ありがとうございます」
「次はひ孫の顔を期待しておくか」
「それはまだ早いよ爺ちゃん」
一度荷物を置いた庵は白那を振って裂け目を作る。
「じゃあまたね!向こうで頑張ってくるよ!」
こうして三人はまた戦国時代へと戻っていったのだった。
お読みいただきありがとうございました!
二章は戦国時代を中心に物語を進めます。御佩刀家のキャラも続々登場させる予定です。
もっと面白い作品にできるように頑張るので、応援よろしくお願いします!




