ショッピングモール
拙作の総合評価が100ptを超えました。
本当にいつもありがとうございます。
「わあっ!見てください桜!あんなに大きな建物がありますよ!お城なんですかね?それに車も沢山停まってます!きっと家臣達が乗ってきた車ですね!」
「ちょっと雪!窓から顔を出したら危ないって庵さんも言ってたでしょう!」
夜鷹の家から三十分ほど車を走らせて、目的のショッピングモールへと着いた。最初は車の速さに顔を青くしていた二人も、だんだんと慣れてきたようで今ではこうして外の景色を見る余裕もあった。
「あれが目的地だよ。お城じゃなくてお店なんだ。一つの大きな建物の中に、沢山のお店が入ってるんだよ」
店内に入ると夏休みだからか子どもが多かった。キャーキャーと騒ぎながら楽しそうにしている子どもを見て、雪と桜は嬉しそうな顔をしている。
「どうしたの?」
「子どもが一人でも攫われる心配がないなんて、本当に庵様の時代は平和なんだなって思って」
攫われることがないとは言い切れないが、雪の言う通り誘拐を心から警戒する人間は中々いないかもしれない。海外から日本人は平和ボケしているとよく言われるが、それは戦国時代の日本から見ても同じなのだろう。
「それにしても外はあれだけ暑かったのに、ここは涼しいわ。どうしてかしら?」
「エアコンっていって涼しい風を作る機械があるんだよ。それを使ってるから夏でも快適にいられるんだ」
桜が気になったのは店内が涼しいことだった。夜鷹の家は山が近くて吹き抜けの多い家だからエアコンはつけていなかったし、車も窓を開けていた。だから二人がエアコンを体感するのはこれが初だ。
「そんな便利なものがあるんですね。涼しい風が作れるなら、暖かい風を作る機械もあるんですか?」
そんなことを話していた三人だが、やけに視線を感じる。雪と桜という美少女が見られるのは当然だったが、中には庵を見ている人も多かった。
「あのっ!」
そんな中で一人の女の子が庵達を呼び止めた。
「もしかして『剣道王子』ですか!?」
剣道王子とはなんだろうと雪が隣を見ると、庵は苦笑いしていた。
「その名前にそうですって言うのは少し恥ずかしいかな。でも合ってると思うよ」
「あの!ファンです!握手してもらっていいですか?」
それに応じて庵が握手すると、女の子はお礼を言って嬉しそうに去って行った。
「剣道王子ってなんですか?」
「あはは。なんて説明すればいいんだろう。テレビっていう遠く離れた場所が見れる機械があるんだけど、僕はそれに出ていた時があったんだ」
無敗の高校生剣士として過去に庵はテレビ出演をしていた時があった。スポーツ番組だったのだが、庵の端正な顔立ちと凛々しい剣士姿にファンもそこそこ付いていた。大学生となってテレビに出ることは無くなったが、今でもこうして顔を指されることはある。
「よく分かりませんが庵様は人気があるんですね!」
庵のいうテレビが何かは分からなかった雪だが、庵が好かれていることは分かった。そんな庵の横にいられる幸福を噛みしめながら、雪はショッピングモールを歩く。
「あ、ごめん。一回ここを覗いてもいい?」
「ここはなんのお店なんですか?」
「ここは寝具屋さんだよ。これで寝たら二人も朝までぐっすり眠れると思う」
庵がまず見ようと決めたのは布団だった。寝むしろと夜着では体に良くないし、なにより今朝に見た風貴のことが気になっていた。ここはプレゼントしようと決めた庵は布団のセットを五人分購入すると、後で取りに来ることを告げて次の店へと向かう。
「いいんですか?あんな上等な物を沢山買っていただいて」
「自分一人で使うのも悪いし、石動家の人には快適に暮らしてほしいからね」
その後も必要だと思った物を庵は片っ端から買って行く。次々に増えていく買い物袋に、もし車がなかったらと考えた庵はゾッとした。一通り買い物を済ませた庵達は、お昼ということでフードコートへと向かう。
「ここはご飯屋さんだよ。といってもどんな食べ物か分からないと思うから、今回はこれを見て気に入った物を食べてみよう」
「凄く精巧な絵ね」
「これは写真といって風景を精巧に写すカメラという機械で作ったものなんだ。それを使えば桜さんも同じような写真を作れるよ」
フードコートの写真を見て雪が選んだのはハンバーガーで、桜が選んだのはたこ焼きだった。
「なんだか色とりどりで楽しそうです!」
「こっちのたこ焼き?は丸くて可愛いわ」
不思議な理由だったが、現物を知らない人からするとそう感じるのかもしれない。お会計を済ませた庵はテーブルを確保して少し待つ。呼び出しベルが鳴り商品を取りに行くと、テーブルの上にハンバーガーとたこ焼き、そして庵が選んだうどんが並んだ。
「甘いようなしょっぱいような不思議な匂いがします。これはどうやって食べるんですか?」
「包み紙を剥がして、そのまま齧り付くんだよ」
「上に乗ったひらひらしたものが動いているわ」
「それはかつお節だよ。海の魚を乾燥させて、薄く削ったものなんだ」
もし周りにこの話を聞かれていたら、一体どう思われるのだろうか。そんな心配をしつつ庵はうどんを啜った。優しい出汁の味と、モチモチしたうどんの食感が美味しい。
「そのまま齧り付く。少し行儀の悪い気がしますがやってみます。はむっ。あっ!美味しいです!ふわふわに挟まれているのはお肉ですかね?とっても柔らかくて、だけどちゃんと食べ応えがあります」
パンを知らない雪はパンのことをふわふわと呼んできたが、味は気に入ったようで何よりだった。
「たこ焼きは熱いから気をつけてね」
「ええ。分かった。ふーふー。はふっ。あ、外はカリッとしてる。でも中はとろりとしていて、面白い食感ね。かけられたタレも甘じょっぱくて美味しい。中に入ってるたこも、くにくにとしてて噛んでて楽しいわ」
桜は雪よりも食レポが上手かった。それを聞かされた庵は次はたこ焼きを選ぼうと心に決める。こうして食事に満足した三人は布団を受け取って車へと運んだ。ただ五つを一度で運びきれなかったため、二人には車で待ってもらって庵は布団屋さんへと戻っていった。
「あ、これお店にあった涼しくする機械ですね。車にも付いてました」
エアコンから吹く風が雪の髪を揺らす。
「雪は今日のことをどう思った?」
「そうですね。平和な時代だなって思いました。それに物が沢山溢れてます」
「私は少し怖いって思ったわ。こんなに沢山の人を今まで見たことがなかったから。もしこの人たち全員が敵になったら、雪を逃せないって思ったの」
「桜は心配性ですね。でもありがとうございます。ここまで着いてきてくれて。そうだ。梓様が言っていたことはどう思ってるんですか?」
「庵さんと夫婦にって話?私はもしそうなれたら嬉しいって思うけど、庵さんが喜ばないかもしれないわ」
「きっと庵様は喜びますよ」
そんな話をして二人は庵を待った。しかし布団を持ってくるにしては妙に時間がかかっている。それから少し時間が経った頃に、庵が布団の他に紙袋を持って戻ってきた。
「ごめん。遅くなって。でもお陰でぴったりのものを見つけられたよ。二人とも着いてきてくれてありがとう。それとこれからよろしくね」
庵は二人に小箱をそれぞれ渡した。
「開けてみていいですか?」
「うん」
雪が小箱を開けると、そこには雪の結晶があしらわれた髪飾りが入っていた。桜の方は桜の花びらがあしらわれた髪飾りだ。
「凄い綺麗です。ありがとうございます庵様!」
「こんなにいい物私が貰っていいのかしら?」
「二人に受け取ってもらいたいんだ。雪はもちろん桜さんも大事な人だからさ」
「あら。それは私も待っていいってことかしら?」
二人は髪飾りを付けて庵に見せた。嬉しそうに笑う二人は何よりも綺麗だった。




